研究課題/領域番号 |
15K16572
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
吉武 講平 新潟大学, 脳研究所, 助教 (60649218)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高次脳機能 / 予測誤差 / 感覚連合 / フラビン蛋白蛍光イメージング / 視覚 / 体性感覚 / マウス / プロトカドヘリン |
研究実績の概要 |
近年の認知脳科学の研究において、「高次脳機能の本質は入力の予測と、現実の入力との差、すなわち予測誤差(prediction error)を最小にすることである。」という考え方が提案されている(predictive coding)。我々は、マウスの高次脳領域である、後部頭頂連合野(PPC)が視覚情報とヒゲからの体性感覚情報を統合しており、両者の空間情報の予測誤差を検出することを報告してきた。 平成27年度は、マウスPPCにおける予測誤差検出機能が経験依存的であることを見出した。6週齢以上のマウスに吻側→尾側へ移動する縞模様の視覚刺激と、尾側→吻側へのヒゲ刺激の様に、逆相に組み合わせた視覚・体性感覚同時刺激を与えるとPPCが反応した。この反応は通常環境での飼育では未経験で予測外の刺激であるので、PPCが予測誤差に対して反応したと考えられる。予測するには経験と学習が必要であるので、経験の少ない、4週齢のマウスに同様の刺激を与えたところ、6週齢マウスより弱いPPCの反応が認められた。この結果から、PPCの反応は経験依存的であることが考えられた。 このことを証明するため、生後直後から暗室飼育を施し、視覚刺激とヒゲ刺激が同時に入力される経験のないマウスに対して、視覚・ヒゲの逆相刺激を与えたところ、PPCの反応は見られなくなった。また、暗室飼育の後に通常の明暗環境飼育へ戻すと、暗室飼育直後に見られなかったPPCの反応が見られるようになった。 以上の結果から、マウスの初期感覚野の回路形成がほぼ成立したと考えられている4週齢以降も高次脳領域であるPPCは成長し、反応が大きくなること。空間情報の予測誤差検出という高次脳機能が経験依存的であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の申請書において、大きく3つの疑問について明らかにしたいと記した。①マウス後部頭頂連合野(PPC)の予測誤差検出機能はcPdchαに依存するのか?②予測誤差検出機能は経験依存的であるか?③PPCのニューロンはどのようにして予測誤差を表現しているのか?
平成27年度は②の疑問について答えることができた。PPCにおける予測誤差に対する反応は4週齢より6週齢と、経験・学習を経るにつれて反応が大きくなった。また、視覚・体性感覚の同時入力の経験が無い、生後直後から暗室飼育を施したマウスは、逆相の視覚・ヒゲ同時刺激に対して、PPCが予測誤差応答を示さなかった。さらに、暗室飼育の後に通常の明暗環境で飼育を続けると、予測誤差応答が見られるようになった。以上の結果から、PPCの予測誤差検出機能は経験依存的であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は申請書に記した3つの疑問の内、後部頭頂連合野の個々のニューロンがどのようにして、予測誤差を表現しているのか?という疑問について明らかにしたいと考えている。 申請者の研究室では、すでに二光子カルシウムイメージングによって、特定の領域における個々のニューロンの応答解析について実績がある。同様のイメージング手法を用いて、PPCにおける、予測誤差応答が個々のニューロンレベルでどのようにして表現されているのか?について明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は所属研究室の他の研究予算の残高があり、申請者の予算を予定通りに消費せずとも研究、及び学会発表等の活動を行うことができたため。また、申請者の持つ科研費若手Bは基金化されており翌年度への持越しが可能なため、申請額より少なく使用されることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、平成27年度予算の残額も使用して、より積極的に国内外の学会での発表や、新しい実験のための機材や薬品等の購入で、予算執行を行う予定である。
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