脳は外界から様々な種類の感覚情報を受容し、ボトムアップ型の情報処理を行っていると考えられてきた。しかし、2000年代より「脳機能の本質は入力の予測と、現実の入力との誤差、すなわち予測誤差(Prediction error)を最小にすることである。」という仮説(Prediction coding)が認知脳科学や計算論的神経科学の分野で注目されている。 マウスは視覚とヒゲを用いて身近な空間を認識することが知られている。我々はマウスにおいて後部頭頂連合野(Posterior parietal cortex:PPC)が視覚とヒゲからの体性感覚を連合し、両者の空間情報の予測誤差を検出するということを報告してきた。平成27年度はPPCにおける予測誤差検出機能が経験依存的であることを報告した。平成28年度はPPCにおける予測誤差応答が、視覚情報とヒゲからの体性感覚情報の空間入力誤差の大きさに依存していることを発見した。また、この予測誤差応答は覚醒下の動物でも同様に見られ、麻酔による脳への意図せぬ影響を計測しているものではないことも確認した。 今年度は、PPCの個々の神経細胞から記録を取るためにニ光子イメージングに着手したが、思いのほか難航した。当初の予想では一次感覚野と同様に記録できると考えていたが、高次領野からのニ光子イメージングの知見・経験の少なさから来る難しさに直面した。しかし、様々な条件検討の末、PPCの神経細胞から記録を取ることに成功しつつある。今後は記録したデータを詳細に解析し、PPCで個々の神経細胞がどのように感覚連合と予測誤差の検出に関わっているのかを明らかにしていきたいと考えている。
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