研究課題/領域番号 |
15K16573
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉田 盛史 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (30723259)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳 / 視覚 / デコーディング / 注意 / イメージング / 画像復元 |
研究実績の概要 |
本研究は、マウス大脳皮質視覚野の神経活動を計測し、そこからマウスが見ている画像を予測(復元)することにより、脳に視覚情報がどのように表現されているのか、そして「注意」によりその画像表現がどのような影響を受けるのかを調べることを目的とする。 当該年度においては、まず、一次視覚野の神経活動から画像を復元する際の計算方法を改良した。従来の方法では刺激画像の各画素を神経細胞の活動の線形和で表現していたが、新規の手法では、刺激画像を大脳皮質一次視覚野の応答特性を示す2次元ガボール関数の足し合わせとして表現し、各ガボール関数は各細胞の活動の線形和で表現した。この方法では、各ガボール関数の表現において少数の神経細胞を使用した方がすべての細胞を使用する場合に比べ画像復元の成績が向上した。一次視覚野の神経細胞に効率良く情報を表現する際にはより少数の細胞を使用すること(スパースな表現)が重要と考えられてきたが、今回の結果は、実際の画像復元に際してもスパースな表現が有用であることを示唆するものである。 視覚的注意に関与する高次視覚野探索の予備実験として、高次視覚野の基本的な視覚特性を調べた。特に、脳梁膨大後部皮質の細胞が一次視覚野と同程度の方位選択性を持つことを明らかにした。脳梁膨大後部皮質は動物の移動行動やナビゲーションなどとの関連も示唆されており、この結果は、それらの情報処理に視覚情報がどのように関与するのかを調べるための基礎となる知見となると考えられる。 また、神経活動の計測に関しては、カルシウム感受性タンパク質(GCaMP)を用いた継続的な神経活動の計測手法を確立し、画像復元の継時的な安定性を検証中である。さらに視覚的注意課題の実験系の作成に着手し、こちらも現在継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では視覚的注意課題の作成や行動課題の条件検討を当該年度内に終わらせる計画であったが、現在も進行中であり、その点においては計画からやや遅れている。ただし、神経活動の計測系に関しては経時的な計測法など条件検討が済んでいるので、行動課題の実験系が確立され次第、データの取得を開始することができると考えられる。 データの解析に関しては、ガボール関数とスパース表現を用いる方法により画像復元の成績を向上させることができ、十分な進展があったと言える。特に、この手法ではガボール関数の傾きやサイズなどのパラメータ毎の表現を調べることが可能であり、注意などの影響により、どのパラメータが変化するのかを調べるなど、今後のデータ解析に有用な手法となる。 また、脳梁膨大後部皮質の基本的な視覚特性を明らかにし、報告できた点も十分な進展と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は視覚的注意の行動課題の実験系をすみやかに確立する。その後、データの取得、解析を行い、注意により視覚表現がどのように変化するのかを明らかにする。 行動課題の確立と平行して、麻酔下や覚醒下等の脳の状態変化の視覚表現への影響を調べる。また、注意に関与するとされる高次視覚野やアセチルコリン投射の影響を検証する。 上述の実験で取得されたデータの解析では、ガボール関数とスパース表現による画像復元方法を用いて、ガボール関数のどのようなパラメータが上記の実験的操作により影響を受けるのかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
行動課題装置作成のための予定費用の一部が節約できたため、次年度への繰り越しを行った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度計画にあるデータ取得実験で使用する試薬の購入に充てることにより、データ量を増やし、再現性の高い実験結果の取得を目指す予定である。
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