研究課題/領域番号 |
15K16579
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹田 敏之 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任准教授 (40588894)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アラビア語 / 湾岸諸国 / メディア / アラブ首長国連邦 / シャルジャ / アラブ伝統文化 / 民具 / 民俗語彙 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、研究計画にそって次の4項目にわたる研究活動を行った。 1.湾岸諸国における現代アラビア語の変容とアラビア語研究における「湾岸求心力」の展開について、前年度に実施したフィールドワークの調査結果を反映させ、本研究課題に関する成果の一部として日本中東学会年次大会にて発表した。特にカタルがイニシアチブをとる「アラビア語大辞典」の編纂プロジェクト(2013年始動)を取り上げ、エジプト・レバノンから湾岸地域へと力的バランスが推移しつつある出版およびアラブ学術ネットワークの実態を明らかにした。 2.これまで収集した湾岸アラブ諸国の口語・方言に関する文献資料および辞書類を対象とし、「民具」をキーワードに民俗語彙の収集・抽出作業を行い、道具名詞の古今について形態的変容という視点から考察を進めた。 3.今年度の刊行を目指している「地域研究のためのアラビア語教科書」について、2の資料および抽出した語彙データを活用する形で、既稿の「道具名詞」の章を増補し、さらに「マスダル・ミーミー」(ミームによる動名詞)の章をあらたに執筆した。また、湾岸諸国における鷹狩りとラクダレースを文化テーマとした講読テキストの編集を進めた。 4.湾岸アラブ諸国における現代アラビア語の変容について、アラブ首長国連邦を対象に臨地調査を行った。具体的には、シャルジャにある文化情報庁のアーミナ氏(研究部門部長)の協力を得ながら「民俗博物館」「海洋博物館」を対象に「民具」に関する聞き取り調査と関連語彙の収集を行った。またドバイでは「人知育成開発機構」(KHDA)のイヤード・ムーサー氏の協力を得ながら、同国における伝統文化の保存およびオーラルヒストリー研究の現況について聞き取り調査を実施した。また同機構が刊行する文化伝統に関する百科辞典シリーズおよび刊行物を収集し、今後の語彙研究(域内における民俗語彙の比較)の対象資料とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
達成度について、以下の点から順調な進展と自己評価した。 1.湾岸諸国を対象とした臨地調査の実施により、伝統文化に関する語彙データ構築に必要な辞書類、および官庁・研究機関が刊行する湾岸方言に関連する資料・文献の収集が計画通りに進んだ。 2.上記1の成果により、次年度に継続して行う民俗語彙の抽出作業とその比較分析(湾岸地域内および他のアラブ諸国との比較)、さらに新語形成(若者ことば、メディアアラビア語の現代的発展)のメカニズム解明に向けて研究上の見通しが立てられた。また、同時に進めているアラビア語教科書の執筆についても、湾岸諸国の文化伝統や地域特有の語彙表現に関する説明・解説を取り込む方向で、次年度の刊行への道筋が具体化してきた。 3.湾岸諸国における言語社会の変容について、本年度までの研究成果を口頭発表することで、湾岸地域を対象とする研究者との建設的な討議が可能となり、次年度以降の論文執筆および本研究の遂行に多角的な視座からの検討を加えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は以下の3点を軸に研究を遂行する。 1.湾岸諸国における民俗語彙(民具、鷹狩り、真珠採取、テントなど)および、若者ことばや新語に関するデータ構築を進め、形態的・意味的観点からの考察・分析を加えていく。その成果を、大学院生を主な対象とした「地域研究のためのアラビア語教科書」に反映させ、今年度の刊行を目指す。 2.湾岸諸国とマグリブ地域(西方アラブ諸国)における正則アラビア語の地域差に着目し、特にメディア(プリントメディアおよび衛星放送)で使用されている語彙表現の差異について、実用例の収集とデータ構築の作業から比較分析を行っていく。その際に、両地域で刊行されているアラビア語辞書(現代語辞典、専門用語辞典)を参照しながら、「湾岸求心力」という視点から、現代語の地域差と均一性、およびその規範と整備の実態について考察を進める。
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