本研究の目的は、湾岸アラブ諸国における現代アラビア語の変容の実態を、同地域における出版文化の興隆および国際化の流れに着目しながら分析することにある。平成30年度は、研究計画にそって次の4項目にわたる研究活動を行った。
1.本研究の成果として、①現代アラビア語の休止形とその教授法の可能性、②湾岸諸国におけるメディアアラビア語と新語・若者ことば、③クウェートにおける伝統文化と詩文化の興隆、という3課題について学会および研究会で発表を行い、一部を論文にまとめ公表した。 2.モロッコの国際ブックフェアを対象に、湾岸諸国における出版文化の影響とその国際化の流れに関する臨地調査を行った。資料収集と聞き取り調査の結果として、ラスム学(聖典クルアーンの綴字法に関わる学問)に関する研究、校訂・出版が近年マグリブ諸国(西方アラブ地域)で非常に盛んになっていることと、その出版・刊行物への需要が湾岸諸国で増加していることが明らかになった。 3.上記の課題に関連して、ラスム学の学派形成と現代アラビア語へのその影響について、研究成果の一部を日本オリエント学会で発表した。特にマグリブ・アンダルス学派がサウディアラビア王立印刷所によるクルアーン刊本(ムスハフ)の綴字法(母音記号の打ち方などを含む)の規範に大きな影響を与えていることを指摘し、その諸規則が現代アラビア語にも反映されていることを明らかにした。本研究の成果については、論文にまとめ公表する予定である。 4.地域研究のためのアラビア語教材開発について、共著者と討議を重ね編集作業を進めた。また学習項目として、「ハイス(関係副詞)」、「5つの名詞群」、「複数の複数」、「ラー・スィイヤマー」の解説をあらたに執筆した。そして、本研究の総括として、これまで収集してきた用例・語彙データを教科書制作に反映させ、『中東地域研究のためのアラビア語:実践文法と用例』を刊行した。
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