研究課題/領域番号 |
15K16580
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤井 千晶 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 特別研究員(RPD) (80722058)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 東アフリカ沿岸部 / タンザニア / ザンジバル / イスラーム組織 / ウアムショ / 地域研究 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、東アフリカ沿岸部における穏健派イスラーム組織ウアムショ(Uamsho:覚醒)の活動と、それを取り巻く民衆運動の展開について明らかにすることである。これまでの先行研究の多くは、ウアムショを「テロ組織」として論じてきたが、本研究ではウアムショが必ずしも暴力を行使する組織にとどまっているのではなく、民衆の支持を集めている側面に焦点を当てる。 2010年初頭、ウアムショの活動はデモ行進や演説、書籍類の出版という形で盛んに実施されていたが、5年ごとの国政選挙が実施されるたびにザンジバル政府による規制を受け、その活動は収まりを見せてきた。さらに2012年、有力な指導者が逮捕されると(2017年4月時点も拘留中)、活動の減少は決定的なものとなった。ザンジバルの国家としての独立というウアムショの主張に多くの人が賛同するものの、そのような意見を公の場で発言することは、難しい状況となっている。 とはいえ、単純にその活動が今後も沈静化していくとみるのは早計である。インターネットを介しての情報発信は、続けられている。このような情報媒体は、彼らが海外のあらゆる組織の活動や思想から影響を受ける手段ともなっている。また、人々のザンジバル人としてのアイデンティティーを呼び覚まし、ザンジバル国家としての独立を掲げ、人々の精神面を一つにしたこれまでの影響力は大きい。ウアムショを通じて強化された「ザンジバル国・人」としてのアイデンティティーは、今後のタンザニア本土との関係にも影響を与え続けると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、次年度に研究成果として公表する単著『東アフリカにおける民衆のイスラーム』を出版するため、執筆活動に専念していた。また、その研究成果の一部として、2016年6月4~5日に開催された日本アフリカ学会第53回学術大会(於日本大学)において、「ザンジバルにおけるイスラーム組織ウアムショの活動」というタイトルで口頭発表を行った。 アフリカ学会での発表では第1に、2000年初頭の設立当初、ウアムショはムスリム同士の連帯、相互扶助、社会貢献、イスラーム教育の普及等、宗教的な目標を掲げていたが、2010年代になると、政教一致やザンジバルの国家としての独立を主張するなど、政治的な内容に変化したこと、第2に、与党である革命党との連立政権に不満を持つ野党の市民統一戦線の支持者らが、ウアムショに活動拠点を移したこと、第3に、ウアムショの活動によってザンジバルでは「ザンジバル国」や「ザンジバル人」としてのアイデンティティーが高まり、ウアムショは島内の世論を政治面だけではなく、精神面においても団結させることに成功していることを指摘した。 最終年度としてのまとめも順調に進んでおり、計画通り単著を出版できる見込みである。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては第1に、今後もウアムショの活動と世論について継続的に調査し、ザンジバルの独立運動についての研究を進めていくことである。 2015年の選挙前、ウアムショの活動はザンジバル政府によって徹底的に封じ込められた。しかしながら、このような政府に抑圧された状態において、ウアムショ関係者が今後も沈黙を保ち続けるとは考え難い。引き続きインターネットなどで発信される情報を収集し、その動静を注視する必要がある。 第2に、ウアムショによって広く根付いた「ザンジバル人・国」のアイデンティティーについて、今後も分析を続けることである。このアイデンティティー意識の興隆は、特にタンザニア本土との関係に、今後も大きく影響を与えるであろう。また、ザンジバル人・国としてのアイデンティティーがイスラームと結びつけてどのように語られるのか、についても考察する。イスラームはザンジバルの人々の思想や生活に深く根付いているからである。ザンジバル人やムスリムとしてのアイデンティティーが強化されたことによって、今後は新たな東アフリカの民衆のイスラーム像が展開される可能性も考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は家庭の事情により、海外調査を見送ったために旅費での支出が当初計画より大幅に減少した。
|
次年度使用額の使用計画 |
海外調査予定であった期間は単著の執筆作業を進めたため、最終年度は出版の形で研究成果を公表する予定である。そのため、繰越金は出版準備にかかる諸費用に充当する予定である。
|