2018年度は、前年の繰り越しのため予算が限られており主に成果発表につとめた。本研究のテーマである熱帯アフリカの交通網の整備は、森林破壊やそれにともなう住民の生活の破壊といった負の影響を与える可能性を有している。しかし、住民は、森林保全や野生動物保護の外部からの圧力に従うこともあるが、ときには抵抗したり、逃げたりしながら、生き延びていこうとする。本研究で明らかにしたのは、現地住民が自らにも開かれた道路を利用して、よりよい生活を送ろうとする姿である。かれらは、開発や森林保全の介入に対する一方的な被害者ではない。 この知見を踏まえつつ、熱帯アフリカの交通網整備の影響の歴史や、現在の現地の状況について文献等を用いて研究を進め、次のような成果報告をおこなった。スウェーデンのNordic Africa Instituteの国際ワークショップにて、カカオ生産と森林保全の関係を道路工事の影響を組み込むながら報告した。本ワークショップはアフリカに見られるモラルエコノミーの現代的な諸相を、様々な地域の事例の比較を通して考察することが目的であった。研究代表者は、カメルーン南部において従来の赤土の道がアスファルトに舗装されることで人々の移動のスピードが格段に上昇した事例を提示した。そして、それが人々の生活や地域社会にどのような変化を与えたのかを議論することができた。 また、『アフリカ安全保障入門』(2019年2月出版)の「食料安全保障」の章を担当し、熱帯アフリカでも見られる土地の収奪について言及した。さらに、本研究の成果を盛り込む形で、2019年度に出版予定である英文の論集と日本語の共著本を執筆している状況である。
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