平成30年度は、地域の歴史文化等の魅力や特色を語るストーリーを文化庁が認定する「日本遺産」に着目し、ストーリーの傾向や認定動向を把握するとともに、特徴的な事例として、生活空間に根ざした防災遺産が認定された和歌山県広川町の事例を取り上げ、日本遺産認定に至る経緯や認定後の施策、観光客受け入れに対する課題や施策について、関係者へのヒアリングや関連資料等をもとに把握した。また前年度までの研究成果を踏まえ、近年の世界的な旅行者数の増加とともに国内外の著名な観光地において顕在化している、いわゆる「オーバーツーリズム」問題に対する視点も踏まえながら、人口希薄地域を取り巻く条件に応じた観光マネジメントの実践手法を整理した。 研究期間全体を通じて、人口流出と高齢化の著しい地方の人口希薄地域に着目し、地域の生活・生業と密接に結びついた文化遺産の観光マネジメントのあり方を、主対象地を富山県南砺市五箇山地域に定めるとともに、国内他地域の事例調査も進めながら実例に基づき考究した。当初計画においては五箇山地域の関係者や地域組織との連携による社会実験を通じた観光マネジメントの検証も想定していたが、この点に関しては期間中に条件や体制を整えることができず実施できなかった。その代替的調査として、和歌山市雑賀崎地区において、漁村の生活文化を軸とした観光客受け入れの可能性を探るための実証実験を行うとともに、五箇山においては和紙産業を手がかりとした観光の現状と可能性、さらに日本遺産認定を受けた和歌山県広川町における施策の動向等を調査した。人口希薄地域においては、地域の生活や生業の持続・向上に資する観光客受け入れのあり方を初期段階から明確化・共有化するとともに、観光関連事業者と地域コミュニティの連携・協働と役割分担による受け入れ体制の構築が求められる。
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