本年度は、カール・クラウスの言語論の内実を、ウィトゲンシュタインの言語論を参照しつつ解明し、あわせて、前者から後者への影響関係と、両者の共通性を示す、という研究を遂行した。また、それと同時に、前年度までの個別的研究と本年度の研究を統合させて、形態学としてのウィトゲンシュタイン哲学の意味と意義を明らかにする研究を遂行した。その成果は、単著『言葉の魂の哲学』として広く一般に公表した。 『言葉の魂の哲学』では、いわゆる世紀末ウィーンにおいて「言語不信」と呼ぶべき言語観が広がったことを概観したうえで、ウィトゲンシュタインとクラウスがそれを超克する「言語批判」の活動を展開したことを確認した。 クラウスとウィトゲンシュタインの関連性は、アフォリズムの多用といった単なる形式的なものに留まるものではない。両者の言語論には深く共鳴する部分、相互に論点を補い合う部分がある。具体的には、まず、言葉の立体的理解とも呼ぶべき契機を重視する点で、両者は共通している。すなわち、類似しつつ別の意味をもった様々な言葉を見渡すことによって、一種の多面体として個々の言葉を把握するという契機である。そして、この契機が特に、「しっくりくる言葉を選び取る」という日々の我々の実践のなかで立ち現れるものであることや、この実践が我々の社会において極めて大きな倫理的重要性をもつことを、彼らは認識していた。本研究はこの点を跡づけつつ、「形態学」という名の下でその探究の枠組みを捉えることができるということを明らかにした。
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