「フランス現象学運動における患者と子どもの位相に関する研究」が本報告書作成者(以下、作成者)の研究課題である。研究期間の最終年度である平成29年度は、前年度(平成28年度)から継続していたメルロ=ポンティの発達心理学へのアプローチ、その哲学的な可能性と重要性を重点的に研究した。また、この研究内容と並行して、同じくフランス現象学運動における重要な著者のひとりである、マルク・リシールの現象学と精神病理学へのアプローチも研究した。 研究成果として、学会発表と研究発表を計3件行い、著書(共著)計3件、解説計2件を公刊した。学会発表2件においては、メルロ=ポンティによる(1)児童精神分析家メラニー・クラインの方法の受容、(2)発達心理学者アンリ・ワロンの鏡像段階理論の再検討について発表を行った。研究発表1件においては、リシールが頻繁に参照するカントの「超越論的錯覚」(『純粋理性批判』)という概念を検討することで、超越論的な哲学(現象学も含む)における精神病理的な現象の位置づけを解説した。この発表を3件中の著書(共著)の1件として公刊した。学会発表2件は、次年度(平成30年度)以降、随時公刊してゆく予定である。 著書2件のうちの1件においては、メルロ=ポンティの思想の歩み、さらにはその歩みのなかでの発達心理学へのアプローチを概説することで、本研究課題の「子ども」というテーマに関する最終の研究成果とした。2件の解説のうちの1件において、マルク・リシールの思想、現象学、病理的な現象へのアプローチを一般向けに解説することで、本研究課題の「患者」に関わるテーマの最終の研究成果とした。残りの著書1件と解説1件については、フッサール現象学および日本の精神病理学に関する翻訳と著作解題であり、本研究の学説史上の背景を示すために公刊した。
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