研究課題/領域番号 |
15K16605
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
佐藤 慶太 香川大学, 大学教育基盤センター, 准教授 (40571427)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | カント / ヴォルフ / ランベルト / テーテンス / 心の能動性と受容性 / ドイツ / 18世紀 / 超越論的 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず前年度の研究を踏まえて、ランベルト『建築術構想』の読解を行い、続いてヴォルフ学派に関する研究を行った。これを踏まえて、ヴォルフ主義とその次世代の批判者たち(ランベルト、テーテンス、カント)との関係についての考察に踏み込んだ。 現在までの考察の成果として、〈この時代のドイツ哲学の構図は「経験的(ヴォルフ主義的経験主義)」VS「ア・プリオリ(1770年以降のカント)」という対立軸で捉えきれない〉という当初の見通しが裏付けられたことをあげたい。対立のポイントは「存在者(ens/Ding)」という哲学の基礎概念の捉え方の違いにあり、これを軸としてヴォルフ学派と次世代の哲学者(ランベルト、テーテンス、カント)が区別される。加えて注目すべきは、三者が、経験的所与を秩序付ける「形式」としての思考能力の働きを、「存在者」の概念の成立条件として捉える、という点である。これは、ヴォルフ学派において、「存在者」の在り方が概念のみを通じて把握されると考えられていること、概念のレベルでの保証が、実在のレベルでの保証に直通することと対照的である。要するに、ヴォルフ学派とカント(を含むヴォルフの批判者たち)との関係は、存在者を概念のみでとらえるか、思考の形式と経験的所与の総合によって成立するものととらえるか、という対立軸によって理解されうる。さらにこの対立を「心の能動性と受容性」という、より大きな視点から捉えなおすと、心の能動性のみVS心の能動性+受容性、という仕方で整理することができる。 研究の成果は、カント研究会にて「『純粋理性批判』第一版における「超越論的哲学」の構想―ランベルト、テーテンスにおける「超越的(transcendent)」についての考察を踏まえて―」というタイトルで発表された。平成30年に刊行される『現代カント研究14』の査読を兼ねており、結果として掲載が承認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度は、当初の予定通り、ライプニッツおよびヴォルフ学派の研究を行った。当初、経験的心理学を中心に研究を進める予定であったが、前年度の研究をふまえると、「心の能動性と受容性」というテーマにおいてポイントとなるのは形而上学の基礎概念をめぐる論争であることが分かってきたので、このテーマに重心をかけることとなった。研究全体の目的に照らして言うと、この重心の変更はむしろプラスに働くので、本研究はおおむね順調に進展していると言える。 前年度、当初の研究計画の順序を変更した点について説明しておきたい。当初、平成29年度に行う予定であったランベルト『新機関』、『建築術構想』の読解を、27年度(28年度も継続)に行った。これは、ランベルトの読解を先行させた方が、当時のドイツ哲学の状況をクリアーに把握するために有益であると考えたためである。27年度に予定していた感覚論についての研究にはいまだ着手していないが、これは29年度に、すでに完了したランベルト読解の代わりに行うことができるので、実質的には研究に遅延はないと判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究開始時に予定していなかったが、平成29年刊行予定の『ドイツ哲学入門』(ミネルヴァ書房)、平成30年刊行予定の『新・カント読本』(法政大学出版局)、平成32年刊行予定の『ドイツ哲学・思想事典』(ミネルヴァ書房)に、本研究に関連する論文、項目を執筆することとなった。どの著作でも、18世紀ドイツ哲学を主領域とする研究者との情報交換が必要であり、すでにスケジュールも組まれている。本研究における最終年度の課題(1754年-1781年におけるドイツ認識論の状況解明)を達成するためには、18世紀ドイツ哲学についてどれだけ知見を広げられるかが鍵となる。研究者との情報交換の機会を最大限活用して、今後の研究を推進させるつもりである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
諸事情により、平成27年3月に予定していた出張を行うことができなかったため、旅費として確保していた予算の一部が残った。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の予算とあわせれば有効に活用できるので、そのようにする。
|