本研究は、「心(Seele)の能動性と受容性」という概念を軸に、1754年から1781年までのドイツにおける認識論の展開を整理し、カントとそれ以外の哲学者たちとの関係を整合的に説明することを目的としている。 「心(Seele)の能動性と受容性」という概念を軸にして当時の認識論の展開を見ていくと、カントが心の二つの側面の独自性(一方が他方に還元されえない性質を有していること)に注意を払った哲学者たち(テーテンス、ランベルト)に共感を示し、彼らと対決しつつ自分の哲学を形作ろうとしたことが見えてくる。このことを前提として研究を進めることでいくつかの成果が得られた。例えば、上記の前提に基づいて「超越論的」という語の用法や、カントの経験的心理学の取り扱いかたを丁寧に吟味してみると、カントが、伝統的な形而上学の展開を意識的に、しかも当時の他の哲学者と歩みをそろえつつ引き継ごうとしていたことや、当時の経験的心理学の見方を受け入れたうえで、より基礎的な心の構造を明らかにしようと試みていたことが分かる。これらは、平成30年度までの研究成果として公になっている。 最終年度は、これらの成果を踏まえたうえで『純粋理性批判』を改めて吟味することに集中した。具体的には「超越論的分析論」の末尾にある、いわゆる「無の表」と「超越論的方法論」の関係に注目して、『純粋理性批判』第一版出版当時の、カントの形而上学計画の枠組みを明らかにすることを試みた。結果的に、『純粋理性批判』第一版出版時に固有の形而上学構想が明らかになるとともに、この構想においては「理念」が、諸々の立場の間で展開される継続的な哲学的対話の場として設定されている、という解釈の可能性も見出された。研究の成果は、the 13th International Kant Congress (第13回国際カント学会)において発表した。
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