研究課題/領域番号 |
15K16608
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
石田 京子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 助教 (80736900)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 共和制 / 代表制 / カント / 国家法 |
研究実績の概要 |
本年度は、国家法に関連するカントのいくつかの著作(「理論と実践」と『永遠平和論』、『人倫の形而上学』「法論」)を比較検討し、共和制に関する研究を深めることができた。本年度の研究で特に明らかになったのは、1790年代にカントが執筆した法・政治哲学関連の著作を比較すると、かならずしも同じ構想が描出されているわけではない、ということである。従来の二次文献においてはこのことにそれほど注意が払われているわけではなく、「代表制」や「共和制」、「一般意志(すべての人の統合された意志)」という用語を説明する際に、さまざまな著作からの引用を用いることが専らであった。しかし、1793年に発表された「理論と実践」では、ルソーの『社会契約論』での説明からの影響を大きく受けるかたちで執筆が進められたのに対し、1795年の『永遠平和論』や1797年の『人倫の形而上学』での説明は、「共和制=代議制」というテーゼ自体は維持しつつも、その内実という点ではルソーの構想から離れるようになる。すなわち、「理論と実践」では、理念的国家と現実の国家の峻別と、現実に対する理念的国家の規範性が強調される。それに対し、1795年の段階では、現実における国家の体制や行為に正当性が認められるためにはどのような手続きを経て立法や決定がなされなくてはならないのかという、いわゆる「手続き的正義」の問題が論じられるようになり、現実の国家において立法権と執行権の分離が担保されている「代表制」が、正当な国家体制とみなされる。『人倫の形而上学』でカントは、『永遠平和論』での問題意識――手続き的正義の確立――を維持しつつ、立法権・執行権・司法権という3つの権力の分立を主張するに至るようになる。以上のように、カントの著作間の異同を分析することが、彼の国家法論を理解するためには重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カントの共和制とその哲学史的・概念史的文脈に関する研究において、カントがルソーからどのような影響を受け、その後どのようなかたちで独自の構想を作り出していったのかを、著作ごとの記述を比較することによって明らかにすることができた。カントが自分の国家法論を構築するのにベースとした歴史的文脈を見出すという観点からすると、研究の大枠を定めることができ、かつ最終年度に検討する課題を絞ることができたので、本研究は現在までにおおむね順調に進展していると考えている。ただし2016年9月に予定していたドイツでの発表ができなかったので、2017年度は研究成果の公表に重点を置く必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はまず、これまでの研究成果の公表に努める。具体的には、2016年度の研究成果を論文としてまとめること、そしてドイツでの日独倫理学コロキウムで9月に発表することを予定している。二つ目は、『社会契約論』でのルソーの議論と「理論と実践」『永遠平和論』「法論」でのカントの議論を精密に比較し、「代表制」に対するカントとルソーの立場の異同を検討する。ルソーは「代表制」を否定したのに対して、カントは「代表制」こそが国家の目指すべき体制だとする。カントがルソーに従っているのであれば、代表制に関する見解のこのような相違がどこに由来するのか明らかにする必要があり、2017年度はこの課題に取り組みたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2016年度9月に予定していた渡独が都合によりできなくなったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年9月5日、7日にフランクフルトおよびエッセンで予定されている日独倫理学コロキウムに出席する計画を立てており、そのための旅費および発表準備のための費用として使用する予定である。
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