研究の流れ・関連性の強弱から判断し、申請者は、平成28年度と29年度の計画を入れ替える形で研究を進めていた。そのため最終年度は、「正しい行為の説明」に関連する研究を行なった。 まず、ヒューム自身が「正しい行為」についての説明・規定を与えていないことから、現代の徳倫理学理論、中でもマイケル・スロートの議論を分析した。スロートの議論では、共感に基礎づけられた他者に対する「思いやり」の考え方によって、われわれには道徳的評価の妥当な基準が与えられるとされ。これを参考に、ヒュームの「正しい行為」の評価基準について検討した。 次に、これまでの成果を踏まえて、ヒュームの「徳」の捉え方について再考を行なった。本研究の最終的な目標は「ヒュームを徳倫理学者として位置付ける」ことである。とはいえ、「徳」を理論の中心に置くとしても、それだけでは「徳倫理学」には分類されず、「徳理論」と見なされる場合がある。そこで、ヒュームは「徳倫理学」か、それとも「徳理論」に分類されるのかを検討するため、関連文献を精査し、①徳の「深奥性」、②行為連関の多重性、③他の作用との多携性、④思慮による統括という4つの条件を満たすものが、「徳倫理学」として分類される、ということを析出し、さらに、その中でも①の「深奥性」が、何らかの理論を「徳倫理学」に分類するか否かを決める分水嶺になっていることを抉出した。ただし、ヒュームの徳の捉え方に、この「深奥性」が認められるかどうか、はっきりしたことは掴みきれておらず、また「深奥性」それ自体の必要条件等についても、考察しきれているとは言い難い。そのため、これらの点が、今後の課題として残されはした。しかしながら、ヒュームの理論を「徳倫理学」として分類できる道筋を得たことは、ヒュームの道徳哲学研究にとってはもちろん、倫理思想史的な観点から見ても、極めて意義深いことであると考えられる。
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