今年度は、前年度までの『分析手帖』の研究でその重要性が明らかとなった、「概念の哲学」と「政治的なもの」の関係を解明することを主要な目的とした。 具体的には、『分析手帖』が創刊されるきっかけとなった『マルクス=レーニン主義手帖』との路線対立がいかなるものであるかを明らかにすることによって、『分析手帖』を刊行する「認識論サークル」の思想の中での「政治的なもの」の位置とその内実を把握することを試みた。 『マルクス=レーニン主義手帖』については、全体像を明らかにした先行研究が存在しない。そのため、『マルクス=レーニン主義手帖』と『分析手帖』の比較の予備作業として、2017年9月にパリの高等師範学校図書館で調査を行い、『マルクス=レーニン主義手帖』の内容を確認した。 『マルクス=レーニン主義手帖』は、「マルクス=レーニン主義学生同盟」の機関誌として、その政治的主張が全面的に展開されていることはもちろんだが、文学に関する特集号が存在することが注目された。『分析手帖』にも文学を扱った号が存在しているが、これは『マルクス=レーニン主義手帖』第8号掲載予定であった原稿が、当該号の刊行中止によって『分析手帖』の一号として刊行されたものである。そこには、マルクス=レーニン主義的に「正しい」文学作品の分析と、『分析手帖』において展開された「概念の哲学」に固有の(そしてマルクス=レーニン主義者たちの逆鱗に触れるような)差異があり、それが路線対立を生んだと考えられる。 『マルクス=レーニン主義手帖』の分析に想定した以上の時間がかかったために、具体的な成果発表にはまだ至っていないものの、平成30年度中に、『マルクス=レーニン主義手帖』の全体像に関する論考、ならびに、二つの『手帖』の文学に対するスタンスの違いを手がかりに、『分析手帖』の固有性と「政治的なもの」との関係を明らかにする論考の二編を公刊の予定である。
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