最終年度はこれまでの研究を継続しつつ、特異性概念の神学的・宗教論的展開を追う作業を行った。 その成果の一端として、年度初頭にはバタイユ・シンポジウム開催、およびそれに伴うジャン=リュック・ナンシー氏の招聘を行った。不慮のトラブルにより残念ながらシンポジウム当日の発表はキャンセルとせざるを得なかったが、研究協力者との連携によって関連するセミナー等を開催することができた。シンポジウムの成果、および関連研究の翻訳紹介等と合わせて論集の刊行(2018年・夏頃)が決定している。 当該シンポジウムでの自身の発表は当然ながら本研究計画の一部をなすものであり、特異性概念の内実を明らかにする一つの軸をバタイユとナンシーという思想家の交流に見出しつつ、「アドラシオン」、「身振り」、「欲動」等々の概念に託して提示するものとなった。 また特異性が担保されるための空間としての「共同体」概念については、アーレント研究会で発表の機会を得た。アーレントの公共空間に対するナンシーの評価ならびに留保の読解可能性をめぐって一つのたたき台を提出してみたが、今後、特異性概念の政治思想における系譜を辿る視点を再検討するための布石となるだろう。研究会報『Arendt Platz』に発表の骨子は公開されているが、これをあらためて前年度までの研究にフィードバックしつつ、より完全な形での公開を目指す。 また目下の出版物としては共著『〈つながり〉の現代思想』に寄稿した論文が本研究の成果を端的に表すものとして挙げられる。
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