本研究課題では、1.「文献研究」によって、チベットからブータンへと伝播した初期ニンマ派の思想を解明、2.「フィールド研究」によって、ブータンに残存する初期ニンマ派の足跡を調査することを目指した。 【1. 文献研究】 チベット仏教4大宗派のうち、ニンマ派研究は他宗派に比べ、大きく出遅れている。近年、欧米では急速にニンマ派研究が進展しつつあるが、にもかかわらず、ブータンにおいて当のニンマ派がどう展開したのか、という問題に関しては、ほとんど光が当てられていない。こうした現状に鑑みて、3年次(平成29年度)には、チベットからブータンに初めてニンマ派の仏教をもたらしたロンチェンパ(1308-1363)について、彼の代表作の重要箇所を抜粋して翻訳し、それらを基盤論・灌頂論・仏陀論の3項目に整理した上で、書籍として出版した。また、書籍末尾の付篇において、チベット生まれであるがブータンを頻繁に訪問し、ニンマ派がブータンで広く流布するきっかけとなったドルジェリンパ(1346-1405)の埋蔵宝典を取り上げ、それが、ロンチェンパの思想の源泉となった文献群『カンドニンティク』から大きく影響を受けている事実を突き止めた。 【2. フィールド研究】 3年次(平成29年度)には、ブータンにニンマ派を深く根付かせたブータン出身のペマリンパ(1450-1521)の足跡を辿るべく、チベットのラサ周辺を実地調査した。しかし、筆者の体調不良のため、予定していただけの調査をこなすことができなかった。
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