研究課題/領域番号 |
15K16617
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
中村 未来 福岡大学, 人文学部, 講師 (50709532)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中国古代思想 / 新出土文献 / 清華大学蔵戦国竹簡 / 経書 / 子産 / 北京大学蔵西漢竹書 / 儒家説叢 / 『詩』 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度より引き続き、聖賢故事関連の文献である清華簡『子産』(『清華大学蔵戦国竹簡』第6分冊、中西書局、2016年)に加え、新たに北大漢簡『儒家説叢』(『北京大学蔵西漢竹書』第3分冊、上海古籍出版社、2015年)を研究対象として取りあげて分析した。その結果、以下の成果が得られた。 1.清華簡『子産』について 鄭の宰相であった子産の事績の大部分は、『左伝』後半部に偏って伝世している。『左伝』には、子産が「礼」を重んずる人物であり、民に慕われる存在である一方、丘賦(税法)を断行し、刑書を鋳て厳格に人々を統制しようとする等、強固に政策を推し進めた人物として描かれている。しかし、儒家系文献である『孟子』や『荀子』では、子産が「恵人」であるが「政を為すを知ら」ぬ人物として描かれている。津田左右吉や小野沢精一は、これらの儒家的な(『史記』や『荀子』等の)評価を受けて、『左伝』の記述がなされたとしているが、孟子の活動時期と同時期に書写されたと考えられる清華簡『子産』を検討することにより、それ以前にも「恵人」を含む多面的な子産評価が存在していたことが明らかとなった。そのため、孟子以降の儒家は、多方面に及ぶ子産の事績の中から、特に「恵人」という子産像を選び取り、自説に活用したものと結論付けた。 2.北大漢簡『儒家説叢』について 北大漢簡『儒家説叢』には、3つの内容が含まれており、それらをそれぞれ類似する文献、『晏子春秋』『説苑』『孔子家語』『韓詩外伝』『荀子』などの語句と対照し、比較検討した。福田哲之「阜陽漢墓一号木牘章題と定州漢墓竹簡『儒家者言』」(『中国研究集刊』第39号、2005年)は『説苑』『新序』『孔子家語』などを阜陽漢簡や定州漢墓竹簡『儒家者言』などと比較検討するが、今後は『韓詩外伝』や北大漢簡『儒家説叢』も含めて、その先後関係や関連性を考察する必要があろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は戦国簡である「清華簡」とさらに漢代の「北大漢簡」を研究対象として、経書及び聖賢故事の研究を進めた。これらについては、研究会において2度口頭発表をし、また中国の簡牘所蔵機関へ複数回資料調査にも赴いた。特に安徽大学を訪問した際には、清華簡と同じく戦国簡とされる「安徽大学蔵戦国竹簡」を実見調査し、徐在国氏(安徽大学教授)と会談することで、本研究に活かせる新たな情報を得ることができた。 また、本年度行った研究の成果は、「戦国期における子産像――儒家系文献を中心に」(『中国研究集刊』第63号、2017年)として学術誌に掲載されている。さらに、これまでに報告者が発表した清華簡『周公之琴舞』及び『命訓』に関する論文に加筆修正を加えたものが『清華簡研究』(汲古書院、2017年)に収録された。『清華簡研究』には、その他、『清華大学蔵戦国竹簡』第1分冊~第6分冊までの概要や書誌情報を報告者が整理しとりまとめた「清華簡(壹)~(陸)所収文献解題」(草野友子氏(大阪大学助教)との共著)も収載されている。 そのため、本年度の研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、主に清華大学蔵戦国竹簡(清華簡)を中心に戦国簡における経書、及び聖賢故事の検討を進めてきた。また本年度は北京大学蔵西漢竹書(北大漢簡)についても研究対象として取りあげたが、阜陽漢簡や居延漢簡などいまだ検討すべき経書関連文献は多い。さらに、整理者である徐在国氏の話によれば、安徽大学蔵戦国竹簡(安大簡)の図版も来年度には刊行予定であるという。安大簡には、『詩経』国風や儒家系文献が多く含まれていると発表されている。そのため、今後はこれらに見られる経書や聖賢故事関連の文献も取りあげ、釈読・整理作業を進めると同時に、総合的視点からそれらの成立や変遷を考察したい。 なお、戦国時代と漢代を繋ぐ資料として、北京大学蔵秦簡(北大秦簡)の存在も注目される。焚書坑儒により経書や聖賢故事が見られないと予測される秦簡であるが、それらと類似する、あるいはそれらに代わるような為政者や人民を規制する内容の文献の有無についても考察する必要があろうと考える。そのため、図版や釈文が公開されれば、北大秦簡も研究対象として取りあげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当該年度に刊行される予定であった新出土文献の図版刊行が遅れたため、次年度、当該書籍を購入するための予算として経費を繰り越した。
(使用計画)次年度、続刊が予定されている清華大学蔵戦国竹簡や、北京大学蔵西漢竹書・北京大学蔵秦簡、安徽大学蔵戦国竹簡などの図版・資料購入費として使用する。あるいは、もし図版刊行がさらに遅れた場合には、学会参加旅費として使用することとする。
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