チュニジアにおけるオリーブをめぐる習俗は、イスラーム圏にありながら他の地中海地域の影響を受けた複合的文化状況の中で存続してきた。モロッコの習俗との類似性からかつては北アフリカに広くみられていた食用植物への信仰の一形態と考えられ、さらに聖者信仰との融合の諸相が明らかになった。イスラームとアマジグ文化の境界においては段階的なイスラーム化の過程が見出された一方、その影響の少ないアマジグ村落では先祖、精霊、聖者、母の象徴がオリーブの木に複合的に表象され崇敬されていた。オリーブの木への崇敬はオリーブ農耕によって展開した樹木の宗教的体験であり、個人と共同体を再生する機能を有するということが明らかになった。
|