研究課題/領域番号 |
15K16624
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
辻村 優英 神戸大学, 経済経営研究所, その他 (50624756)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | wise self-interest / 共苦 / 利他 / 合理性 / 消極的功利主義 / 物質的な富 / 心の富 / 仏教経済 |
研究実績の概要 |
①ダライ・ラマ、アマルティア・セン、仏教経済関連を中心に文献収集およびテキスト化を行った。 ②仏教経済学(Buddhist Economics)の研究動向の調査を行った。 ③ダライ・ラマにおける「富」の位置づけを分析した。チベット独自の銀行券に記された「四つの素晴らしきもの」(phun tshogs sde bzhi)という言葉を手がかりに、『ジャータカ・マーラー』『ブッダチャリタ』『瑜伽師地論』『根本説一切有部毘奈耶』『菩提道次第略論』等の諸仏典に見られる富についての記述を踏まえ、ダライ・ラマが富を「物質的富」と「心の富」の二つに分けて考え、布施や社会的責任投資のようなwise self-interest(賢明な自己利益)にもとづいた物質的富の運用が、心の富につながると考えていることを明らかにした。 ④アマルティア・センと比較するための事前作業としてダライ・ラマの思想における功利主義的傾向について分析を行った。「律」においては規則功利主義的傾向が、「菩薩戒」においては状況主義的な行為功利主義的傾向がみられるも、両者における主眼は効用の最大化ではなく「苦の最小化」にあり、この点カール・ポパーの消極的功利主義に親和的であることが明らかになった。 ⑤アマルティア・センにおける合理性概念のレヴューを行った。アマルティア・センによれば、経済学における選択の合理性にかんする従来的理解の中心となるものは、自己中心的な自己利益に基づくもの、および内的整合性に基づくものの2つがあり、これらには利他的な要素は含まれていない。しかしアマルティア・センによる合理性には、他者に関連する目標や価値についての理性にもとづく精査が含まれるのであって、自己中心性だけでなく、他者中心性にもとづくものも含まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね計画通りに進捗しているため。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度はおおむね計画通りの進捗を維持しているので、平成28年度も昨年度と同じ作業を基本的に続けていく。その作業を踏まえ、論文等によって研究成果を公開していく。 また、昨年度の作業遂行中に「正義論」の枠組みへ議論を発展させることができる見通しを持つことができた。本研究課題の範疇ではないので今回は正義論を扱う予定はないが、将来的な重要な課題として研究していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初テキスト入力用のノートPCを購入予定だったが、大学の備品であるPCを使用することができたため。またテキスト入力の進捗に合わせて購入予定だった書籍の購入を見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
テキスト入力の人件費および書籍購入に用いる。
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