研究課題/領域番号 |
15K16626
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研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
古荘 匡義 大谷大学, 文学部, 非常勤講師 (40710447)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 綱島梁川 / 宗教体験 / 見神 / 実験 / 西田天香 / 翻刻 / 宗教哲学 / 宗教学 |
研究実績の概要 |
近年の明治以降の宗教に関する研究においては、内村鑑三や清沢満之、近角常観などの宗教者が主宰する集会・雑誌が形成する宗教的な共同性の解明が進んでいる。これらの共同性が特定の宗教・宗派に基づいているのに対し、本研究で扱う綱島梁川(1873~1907)を軸とする集会(「梁川会」)や回覧ノート(『回覧集』)が形成する共同性は、特定の宗教・宗派の縛りのない、ゆるやかで自由な雰囲気の共同性である。このような綱島を軸とする共同性を解明することは、明治・大正期の宗教的共同性の多様性を示すために不可欠の研究である。しかし、現状ではこの解明に必要な基本的資料が整備されていない。そこで、本研究では『回覧集』を翻刻し、『回覧集』の分析を通して綱島を軸とする共同性を明らかにすることによって、明治・大正期の宗教的共同性の研究に新たな資料を提供し、この時代の宗教的共同性の多様性を描出する。さらに綱島が同時代の人々に与えた影響を解明し、この時代における綱島の思想の位置を明らかにする。 平成27年度には以下の4点を実施した。①岡山県高梁市立図書館の「梁川文庫」を調査し、蔵書への書き込み状況も含めた資料の全リストを作成した。②高梁市有漢生涯学習センターに所蔵されている綱島梁川関連の資料の一部を調査した。具体的には、未公刊資料の内容を分析するとともに、蔵書への書き込み状況を調べた。③『回覧集』全7巻の画像データを作成し、部分的に翻刻を実施した。④清沢満之・西田幾多郎・西田天香らとの影響関係について分析し、明治後期における綱島思想の重要性を明らかにした。 なお、平成28年度は、『回覧集』翻刻や資料調査の完了を目指すとともに、明治・大正期の宗教思想を専門とする研究者との共同研究に力を入れ、この時期の思想における綱島の位置づけを明確にしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究は、計画通りに進行した点、計画より遅れている点、計画以上に進展した点があり、総合すると研究の進捗は順調だと思われる。 【計画通りに進行した点】岡山県高梁市の高梁市立図書館の「梁川文庫」については調査が完了し、書き込みの状況も含めてリストを作成した。高梁市有漢生涯学習センター内の綱島梁川「資料室」については、すでに「資料室」で作成していたリストをもとに未公刊資料や蔵書への書き込みなどを調査しているところである。綱島と同時代の思想家の文献蒐集とその分析も順調に進めている。 【計画より遅れている点】計画では、本研究で作成した資料のリストは順次Web上で公開するとしていたが、現時点では公開に至っていない。というのも、現地への出張の結果、「資料室」の資料に関しては、すでに「資料室」でリストを作成していることが判明したからである。このリストを本研究独自の調査報告として公開することはできない。そこで、資料への書き込み状況なども含めた詳細なリストを完成させた後、「資料室」の許可を得られればリストを公開する方針に変更した。また、平成27年度の研究成果は口頭発表1回、共著1冊であるが、計画では学術論文も執筆する予定だった。しかし、「12.今後の研究の推進方策等」で示すように、平成28年度に多様な仕方で成果を公表すべく準備をすることができた。 【計画以上に進展した点】研究計画では、明治・大正期の宗教思想に関心をもつ研究者との積極的な共同研究について明確に計画していなかった。しかし、平成27年度にさまざまな研究会等に参加するなかで多くの研究者とのネットワークを作ることができた。平成28年度には明治・大正期の宗教思想に関する複数の共同研究を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、『回覧集』の翻刻の完了を目指す。また、綱島梁川資料室において資料の調査を引き続き行い、資料リストの公開を目指す。 さらに綱島梁川が明治・大正期の宗教思想に与えた影響を総合的に分析していく。この分析にあたり、平成28年度より岩田文昭氏(大阪教育大学)を研究代表者とする科研費による研究(平成28~30年度基盤研究(C)「実験と伝統―明治・大正期の宗教と心理体験―」)に連携研究者として加わることとなった。それを受け、平成28年度以降、明治・大正期の宗教思想の研究者との共同研究を積極的に行っていく。9月の日本宗教学会においては、岩田氏らとともに、明治・大正期の宗教体験の言説化とその伝播についてのパネル発表を実施することが計画されている。このパネルにおいて、研究代表者は綱島梁川の体験の言説化が西田天香にどのように引き継がれたかを分析する予定である。他にも、近代と仏教研究会での研究発表も計画されている。これらの発表をもとに学術論文も公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に従い必要な支出を行った結果生じた残額である。
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次年度使用額の使用計画 |
683円という残額を含めても次年度の使用額は当初の額と大差ない。計画通りに支出を進めていく所存である。
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