近年の明治以降の宗教に関する研究においては、内村鑑三や清沢満之、近角常観などの宗教者が主宰する集会・雑誌が形成する宗教的な共同性の解明が進んでいる。これらの共同性が特定の宗教・宗派に基づいているのに対し、本研究で扱う綱島梁川(1873~1907)を軸とする集会(「梁川会」)や回覧ノート(『回覧集』)が形成する共同性は、特定の宗教・宗派の縛りのない、ゆるやかで自由な雰囲気の共同性である。このような綱島を軸とする共同性を解明することは、明治・大正期の宗教的共同性の多様性を示すために不可欠の研究である。しかし、現状ではこの解明に必要な基本的資料が整備されていない。そこで、本研究では『回覧集』を翻刻し、『回覧集』の分析を通して綱島を軸とする共同性を明らかにすることによって、明治・大正期の宗教的共同性の研究に新たな資料を提供し、この時代の宗教的共同性の多様性を描出することを目的とした。さらに綱島が同時代の人々に与えた影響を解明し、この時代における綱島の思想の位置を明らかにするよう努めた。 『回覧集』の翻刻については、当初3年間の研究期間内に全七巻の翻刻を行う予定であったが、この3年間で翻刻を完了させることができなかった。ただ、特に関心のある思想家の部分から翻刻作業を進めた結果、平成29年度には綱島梁川研究および『回覧集』の翻刻・分析に基づく論文4件、ならびに口頭発表1件を公表することができた。論文としては、綱島梁川の個人格に関する思想研究、『回覧集』の翻刻とその分析を通して一高・帝国大学哲学科で学んだ魚住折蘆・安倍能成・宮本和吉・小山鞆絵への綱島の影響を考察する研究、『回覧集』における西田天香と堀米康太郎の思想的交流を分析した研究を公表できた。
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