研究課題/領域番号 |
15K16630
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松山 洋平 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD) (50748704)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | スンナ派 / イスラーム神学 / アシュアリー学派 / マートゥリーディー学派 / ハディースの徒 |
研究実績の概要 |
本年度は、著作『イスラーム神学』を執筆・校正し、1月下旬に、作品社より刊行した。研究成果は、本書の以下のような点に反映されている。 【1.三つの神学的潮流を考察】現在出版されている邦書のすべては、アシュアリー学派の教説を紹介することでスンナ派神学の紹介に代えている。本書では、アシュアリー学派にのみ着目する従来のスタンスを離れ、アシュアリー学派/マートゥリーディー学派/「ハディースの徒」という三つの潮流を軸に、スンナ派信条の全体像を詳しく解説した。これは研究代表者がこれまでスンナ派のアシュアリー学派、マートゥリーディー学派、「ハディースの徒」の相互認識と異同を研究してきた成果である。 【2.ナサフィーの『信条』を収録】本書は、スンナ派における最重神学要諦のひとつであるナサフィーの『信条』全訳を収録している。ナサフィー『信条』にはすでに中村廣治郎による翻訳が存在するが、日本の一般読者に理解がたやすいように全面的に翻訳を見直した。『信条』にはマートゥリーディー学派の教説が反映されている。そのため、同学派の研究者でなければ意味を正確に把握できない箇所がいくつか含まれる。中村訳では、それらの点が正確に翻訳されていなかった。今回の研究代表者の翻訳によって、本邦では紹介が遅れているマートゥリーディー学派の神学的教説が、本邦で初めて正確に紹介されたと言える。 【3.付録「ムスリム・マイノリティのためのイスラーム法学と神学」】本付録は、日本のような非イスラーム地域におけるイスラームのあり方をめぐる問題点を、イスラーム神学・イスラーム法学の観点からまとめたものである。本付録は、3年間の多文化共生に対するイスラームの思想的基盤の研究の成果をまとめたものであり、表層ではなく、ムスリムが「非ムスリム社会」で生きるにあたっての神学的・法学的問題点と解決策を提示したという意義を持つ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
27年度に、作品社から、単著『イスラーム』神学を上程した。 当初の予定では、書籍のかたちで研究成果を公開するのは、28年度に予定していたことであった。しかし、研究・執筆が進んだため、27年度中の出版にこぎつけることができた。 本書では、研究計画において明らかにしたい課題としていた「アシュアリー学派・マートゥリーディー学派・「ハディースの徒」の相互認識の展開」の概要を、図式的に示すことができた。同時に、古典神学書である『ナサフィーの信条』を土台として、この神学書で触れられているもろもろの論点について、上記の三つの神学的潮流の思想的異同をまとめることができた。 これは、当初3年間かけて明らかにしようと考えていたことの3分の1を超えており、研究は予定以上に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
マートゥリーディー学派の信仰論を基軸として、スンナ派のその他の新学派との比較を具体的に行っていくことを課題とする。 27年度に行った研究は、スンナ派神学派間の相互認識と見解の相違の要点を、大局的に理解するための作業であった。 28年度の研究は、個別的な事例を取り上げ、より具体的な問題を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
27年度は、書き下ろしの単著の執筆に多くの時間を費やした。そのため、旅費等の支出が予定よりも少なくなり、結果として、当初の計画よりも研究費の使用額が低くなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
28年度は、研究機関が変更となり、個室の研究室も確保できた。そのため、これまで以上に資料の収集(主に図書の購入)を行う予定である。 また、27年度に叶わなかった学会発表を行うため、そのための旅費がプラスされる。
|