本年度は「個人的な美的経験・美的判断」に注目しつつ研究を進めた。 まず、7月に岡山大学で開催された合評会「日常に根ざした言葉で哲学をするということ:飯田隆『新哲学対話』をめぐって」に登壇し、「ワインの評価基準の独特なところ」というタイトルで発表した。その後、この成果を改稿し「ほんとうに台所からワインを語るために――飯田隆『新哲学対話』第1章「アガトン」から考える」というタイトルで論文化したものが『邂逅:岡山大学哲学倫理学会年報』に掲載された。 また昨年登壇したフッサール研究会でのシンポジウム「現代現象学の批判的検討」をふまえた書評への応答論文を「現象学の境目問題について美学の観点から答える」というタイトルで執筆し、『フッサール研究』に寄稿した。 あわせて、ネタバレという従来あまり注目されてこなかった事象をテーマにワークショップ「ネタバレの美学」を開催した。このワークショップでは、高田敦史、渡辺一暁、松永伸司の三氏に登壇を依頼し、コメンテーターに稲岡大志氏を迎えた。その内容は論文化され、今後、哲学雑誌『フィルカル』に掲載される予定である。 また、「サルトル」「美の哲学」の項目を執筆した哲学の教科書『よくわかる哲学・思想』(ミネルヴァ書房)が刊行された。 本研究をふまえて見えてきたのは、現代の美的経験論の発展をあらためて捉えなおすことの必要性である。新たに採択された次年度以降の研究課題では、現代の美的経験論について研究を進めていきたい。
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