研究課題/領域番号 |
15K16638
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
安納 真理子 東京工業大学, 外国語研究教育センター, 准教授 (80706408)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 能楽 / 英語能 / 能指導プログラム / 伝承 / 教育 / 教育法 / 参与観察 / 異文化教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、アメリカとヨーロッパにおいて能がいかに受容され発展してきたかを比較し、その実態を明らかにすることを目的とする。具体的には、各国の能指導プログラムと英語能(英語で作られた能)の作品を比較対象とし、それぞれの西洋文化における美的意識、能に対する感性などの違いを解明した上で、それらの感性がどのように英語能の作品の音楽やテキストなどに反映されているかを追究している。 当該年は、英国のNoh Training Project-United Kingdom (NTP-UK、省略)に参与観察した。調査の結果、NTP-UKは、報告者が平成26年度に参与観察した米国のNoh Training Project-Bloomsburg (NTP-B、省略)のプログラムの構成や教授法を受け継いでいることが明らかになった。なぜなら、NTP-Bの指導者であるリチャード・エマートが、NTP-UKの謡・仕舞・囃子(楽器)を指導していたからである。ここでは、師匠の動きを弟子に真似させる日本の古典的な指導法と、エマートが型や謡を部分的に説明する西洋的な教育法が併用され、英語での資料が配布されていたことが確認された。 加えて、英語能の音楽分析や教授法の比較分析のために能の稽古・指導を受け、その成果として、英語能〈Pagoda〉の音楽分析を豪州のMusicological Society of Australia (MSA)の音楽学会で発表した。また、その学会で初演された英語能〈Oppenheimer〉の創作過程も見ることができ、今後の分析対象の予備調査を進められた。 さらに演奏・指導の実践面では、英語能〈Blue Moon Over Memphis〉(〈BMOM〉、省略)で能管を吹き、米国イリノイ州シカゴで「能楽を楽しむ夕べ」と題して、能に触れたことがない日本人やアメリカ人に能の歴史や実技指導を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、計画していた英語能の資料収集・整理を予定通り進められ、豪州のMSA学会で発表することができた。また豪州の学会の時に初演された英語能〈Oppenheimer〉の上演と創作過程を観察し、作家へのインタビューを実施できたため、研究対象の範囲を広げられた。 また英語能〈BMOM〉は、米国ニューヨーク州ではなく、平成27年5月東京で上演されたので、能管の奏者として参加し、作品を上演するまでの交流過程に直接関わることができた。平成26年8月にペンシルベニア州で行われた〈BMOM〉のワークショップにも参加したので、このワークショップと本番の舞台を比較し、試行錯誤を重ねた過程に光を当てることができた。 当初は当該年度に英語能〈Sumida River〉に参加する予定だったが、大学の授業期間に日程が組まれたため、スケジュールの都合で実現できなかった。しかし、平成28年度に出席する予定だった英国のNTP-UKを前倒しして参与観察することができ、そこで英国における指導者の教育法を実際に体験し、また分析することができた。したがって、研究期間全体を通して見れば、研究計画はおおむね順調に進展していると言える。 これらのフィールドワークや古典能の基礎の研鑽を積むことによって、音楽の比較分析や、それに基づく学会発表を実施できた。学会で得たフィードバックを踏まえて執筆・投稿した論文は、本研究課題で最終的な成果物として発表を予定している書籍『英語能の音楽の手引き』の一部を成すものである。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、Association for Asian Studies-in-Asia (AAS-in-ASIA)およびAssociation for Theatre in Higher Education (ATHE)学会大会でこれまでの研究成果を発表し、その内容に基づいて論文を執筆する。また、京都市立芸術大学・日本伝統音楽研究センターの「音曲面を中心とする能の演出と進化・多様性」プロジェクトへの参加を継続し、英語能の音楽分析の研究発表を通して、能楽研究者に専門的知識の提供を求める予定である。 さらに、国内で二つ、国外で一つの能指導プログラムへの参与観察を予定している。これらの国内外の能指導プログラムは、スケジュールによっては参与観察ができない可能性がある。その場合は、指導者へのインタビューや資料収集によって、そのプログラムについての調査を補う。 また、平成27年度に上演に参加した〈BMOM〉や、初演に立ち会った〈Oppenheimer〉の音楽分析、作家・作曲家へのインタビューを通じて、その創作活動、題材の意図や、美的意識を追究し、学会で発表する。その成果を事例研究としてまとめ、前述の書籍『英語能の音楽の手引き』に収録することを計画している。上記以外の作品の研究も継続し、能の基礎的な知識については引き続き能楽師に提供を依頼する予定である。 なお、前年度までの調査や研究発表を通して、能の指導法や英語能の音楽的特徴を理解する上で、古典能の稽古や実演を今まで以上に経験する必要性を感じたため、能の基礎実技の習得と実践に力を入れたいと考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前述のとおり、平成28年度に予定していた英国のNTP-UKの参与観察を、平成27年度に早めたことに伴い、平成28年度の支払請求を前倒しする必要が生じた。能指導プログラムは、予算や指導者の都合等で急に中止されたり、時期が変更されたりする可能性があるため、確実に開催が決定していて参加が可能な平成27年度にNTP-UKの参与観察をするほうが望ましいと考えられたからである。他方で、英語能〈Sumida River〉はスケジュールが合わず参加できなくなったため、結果的にその分の予算を繰り越すこととなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
繰越金は、平成28年度に予定している国内外の能指導プログラムのフィールドワークと古典能の基礎実技の習得に使用する。
|