本研究の最終年度にあたる当該年度は、当初から計画していた書籍『英語能の音楽の手引き』の執筆を進めた。それに先立って、英語能団体「シアター能楽」の作品資料を収集し、音楽とテキストを分析し、作家や作曲家にインタビューを行った。さらに、英語能の創作・上演過程の参与観察から知見を得て、能楽師より能の実技を習得した。これまで深めてきた知識を活かして、能の多様なリズムにどのように英語のテキストを乗せることができるかを実践的な手法で明らかにし、能の構造と柔軟性を理解することを試みた。そのため、第二次世界大戦中にカウナスの日本領事館領事代理だった杉原千畝を題材とした英語能の創作に自ら着手した。成果物として能管に関する本も出版予定である。 ミシガン大学日本研究センターにおいてはトヨタ招聘客員教授として、能の音楽や指導法について授業を担当した。加えて研究者や一般を対象にした研究発表・講演や、実技の公演などにゲストとして出演した。英語能〈Blue Moon Over Memphis〉をミシガン大学とUCLAで上演した際には、昨年度と同じく能管の奏者として参加したが、新しい演者や囃子方に代わったため、異なる間の取り方、作品や演目の解釈に対応する力も上演の積み重ねで得られた。 昨年度ポーランドにおいて参与観察を予定していた「緑蘭会」が中止されたため、事業期間延長を申請したが、今年度も同団体の経済的問題は解決されず、能指導プログラムが実施されなかった。しかし①例年通り、毎週東京で行われているNTP-Tokyoに参加し、②喜多能楽堂とシアター能楽による、今年度で二回目を迎えた外国人向けの同名プログラムに出席できた。プログラムを通して、外国人指導法として効果的なのは、小規模な団体でのドリルを用いた段階的な教育法であるという確証を得た。
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