研究課題/領域番号 |
15K16646
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
上原 真依 愛媛大学, 教育学部, 講師 (90609463)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 美術史 / ルネサンス / イタリア / 美術市場 / カルロ・クリヴェッリ / 祭壇画 / クリヴェッリ派 / 地方画派 |
研究実績の概要 |
本研究は、カルロ・クリヴェッリの活動とクリヴェッリ派作品の広がりを中心に、ルネサンス期のイタリア地方部において他都市出身の画家の活動が受容され、複数の町村で工房を構えた現象を、史料および作品実地調査の最新の成果に基づいて解明するものである。平成27年度は、これまでのクリヴェッリの祭壇画作品についての記録収集に加えて、クリヴェッリ派作品まで対象を拡大し調査を行ってきた。具体的には、1)関連文書史料の収集と分析、史料で言及された作品のデータベース化 2)今もマルケ地方に残るクリヴェッリ派作品の現地調査 3)アメリカで開催されたクリヴェッリ展でのパネル調査を行った。後述するように、イタリアの文書館での史料収集については閲覧冊数の突然の大幅縮小によって平成27年度予定分の達成が難しかったが、代わりに平成28年度以降の予定だったマルケ地方でのクリヴェッリ派作品を調査し、またボストンで開催されたカルロ・クリヴェッリ展覧会で祭壇画パネルを実見・精査した。特にマルケ地方の作品調査では通常実見の難しい地方画家ルーカ・ディ・パオロの祭壇画作品を精査することができ、クリヴェッリ様式の広がりを考察するうえで重要な資料を得ることができた。 これまで一地方の特異な画家として扱われてきたヴェネツィア出身の画家カルロ・クリヴェッリと、画家の様式を受け継いだマルケ地方のクリヴェッリ派の画家に注目することは、同地方に置けるクリヴェッリ派の盛衰を紐解く助けとなる。また来年度以降も引き続き実施する19世紀教皇領下の公的史料や各地のコレクターの記録の調査は、マルケ地方にかつて点在していた作品分布を明らかにする有力な手掛かりとなるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は次の文書館調査を予定していた。(A)1820-55年、教皇庁への作品売却許可申請書(ローマ国立古文書館、マルケ各地の古文書館)、(B) 19世紀後半、教皇庁または新政府商業省への作品移動許可申請書(ローマ国立古文書館、ローマ中央国立古文書館)、(C)1851年商業省により実施された、教皇領内聖堂の美術品一斉調査(アスコリ・ピチェーノ、マチェラータ、アンコーナ、ペーザロ、テーラモ国立古文書館)、(D)19世紀、マルケ地方の貴族や識者による町の聖堂に関する覚書や歴史書の下書き(マチェラータ市立図書館、ファブリアーノのラメッリ家文書) 何れも未刊行史料であるため、現地での史料収集が欠かせず、9月に史料調査を行う予定であった。しかし平成27年は夏前よりイタリアの古文書館で大幅な人員削減・開館時間の縮小で、一日に閲覧できる史料数が激減してしまった。(例:ローマ国立古文館では平成26年までは週に5日間、最大10冊の史料請求が可能であったが、平成27年より週に3日間、最大3冊までとなった。なお、平成27年10月1日付けで前年度の状況にほぼ改善された)イタリアの古文書館では突然システムが変わることが多いため、出張時期を合わせることは難しい。止むを得ず、平成27年度に予定していた文書館での史料調査の一部を先送りし、代わりに収集済みの史料に基づく作品分析とデータベース化を進めると同時に、平成28年度に予定していたクリヴェッリ派の作品調査の一部を前倒しすることとした。特にマテーリカでクリヴェッリの影響下にあった画家ルーカ・ディ・パオロの展覧会が開催されていたことを契機に、通常見られない同作家の作品を調査する機会に恵まれた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に収集できなかった史料、特にローマの古文書館所蔵の作品移動に関する申請書、マチェラータ市立図書館所蔵のA・リッチのマルケ地方視察に関する美術品覚書の調査を進める予定である。収集史料をもとにデータベースを充実させることと並行して、現存作品調査を引き続きおこなう。調査対象は(a)主に19世紀に売却され、世界各地に流出した作品 b) 本来の設置聖堂から移動されたものの、マルケ地方とその周辺に留まった作品 (c) 今も同地方内の本来の設置聖堂で保管されている作品の3点に分類できる。 世界各地に流出した作品(a)の多くはカルロ・クリヴェッリと弟ヴィットーレの祭壇画パネルであり、データベース化済の売却関連史料(A)や私的な覚書(D)に基づき、学芸員の協力を仰いで、必要に応じ科学調査によってパネル改変の痕跡を明らかにしながら、作品調査を進める。現時点では調査対象として、ヴィットーレ・クリヴェッリやピエトロ・アレマンノの祭壇画パネルを所蔵するミラノのブレラ絵画館を想定しているが、史料調査の分析により成果の見込まれる作品を優先して調査する。学芸員との交渉準備期間も考慮し、海外流出パネルの調査はH28年度末~H29年度初頭を予定している。 主に作品移動に関する史料(B)や1851年の美術品一斉調査(C)で言及されるのは、現在もマルケ地方とその周辺で確認できる作品(b, c)である。本来の設置聖堂から移動された作品(b)の多くは、各コムーネの美術館に保管されているため、マルケ州文化財局と交渉しながら作品調査を進める。また現在も本来の設置聖堂におかれている作品(c)は、通常公開していないものも多く入念な予備調査が必要であるため、聖堂に関する情報収集をすすめながら平成28年-29年度に聖堂保管作品の実地調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題に関連する国際シンポジウムが平成28年度初めに予定されていたため
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次年度使用額の使用計画 |
国際シンポジウム「Negotiating Art」の参加費、出張費の一部として使用予定
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