本研究は、ヴェネツィア出身の画家カルロ・クリヴェッリの活動とクリヴェッリ派の広がりを中心に、ルネサンス期のイタリア地方部において、他都市から来た芸術家の活動が受容され拡大していった現象を、史料および作品実地調査の成果に基づいて解明するものである。 当初の計画では平成29年度は、前年度までの資料・作品調査に基づき、カルロ・クリヴェッリの活動とクリヴェッリ派の伝播、影響の広がりを纏めることとしていたが、平成28年8月24日にイタリア中部で発生した大地震により、調査対象を含む多くの聖堂の全半壊、同地域への立ち入り制限、作品を保管する博物館の閉鎖、文書館の休館を受け、大幅に計画を変更せざるを得なくなった。 そこで、今年度は5月24日より2ヶ月間イタリアに滞在し、クリヴェッリ派の広がりを想定できる調査対象地域を地震被害の少ないマルケ地方北部に拡大し、ローマ国立古文書館で同地域に関する史料調査を行うと同時に、地震により調査が頓挫していたマルケ地方中南部に関しても作品の現状や古文書館の復旧状況についてローマのヘルツィアーナ図書館を拠点に情報収集をすすめ、実見の機会を得られるものから調査に当たることとした。 資料調査については、ローマ国立古文書館などを中心に、これまで調査対象としていなかったペーザロ地区での教皇庁への美術品に関する報告書を調査したが、確認できた祭壇画関連記録は僅かであった。一方、作品調査に関しては、ちょうど地震からの復興事業の一つとして、イタリア各地の美術館や聖堂にて、マルケ地方の作品(通常アクセス困難な作品を含む)が展示される地震被害報告展が開催されたため、それらの展覧会を調査することが作品実見・調査の貴重な機会となった。 調査対象の変更から、史資料および作品調査の整理・分析が当初の計画よりも遅れているものの、平成30年度中にその成果を学会誌に発表する予定である。
|