研究課題/領域番号 |
15K16647
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
池田 真弓 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 講師 (70725738)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 美術史 / 書物史 / インキュナブラ / 挿絵 / 出版史 / 植物 / ドイツ |
研究実績の概要 |
本年度はマインツの出版者ペーター・シェーファー印行による2種の本草(薬草図鑑)である『マインツ本草』(1484年出版)と『健康の庭』(1485年出版)を、その挿絵を中心に研究し、それぞれの版の特徴や出版意図、想定される読者層などを考察した。 『マインツ本草』の挿絵は、イラスト的ともいえる簡潔明瞭な描写が特徴だが、本調査により、この独特の様式は画家の個性によるのではなく、本書の製作方針に沿ったものである可能性が高いことが分かった。さらに、現存コピーのうち挿絵に手彩色が施されているものが複数存在するが、それらの彩色を比較した結果、出版元で統一的に彩色された可能性が高いことが明らかになった。つまり『マインツ本草』の挿絵は、出版者(もしくは著者)の意図を強く反映しているといえる。また現存コピーの所用者調査等も踏まえた結果、本書は医師や修道士など、実際に医療に携わる人間のための実用書という側面が強いことが明らかになった。 『健康の庭』は、貴族でマインツ大聖堂参事会員でもあったベルンハルト・フォン・ブライデンバッハが企画した。その特徴としては、ラテン語ではなくドイツ語で書かれていること、そしてふんだんな数の挿絵を含んでいること、しかも比較的写実的なものも少なくないという点が挙げられる。しかし実際に挿絵を調査すると、写実的な挿絵も含め、中世の写本挿絵や銅版画を参考にして描いたものが少なくないことが分かる。また、本挿絵の主要画家であったエルハルト・ロイヴィッヒの関与の度合いについても、従来考えられていたよりも小さかったことが明らかになった。本書の調査結果を踏まえると、『健康の庭』は医療従事者のみならず、知的好奇心を持ったアマチュア富裕層をも念頭に置いて企画されたとすることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
『マインツ本草』と『健康の庭』の研究は、図鑑挿絵という広範な研究分野に関わってくるため、予想以上に多くの問題をはらんでいることが、今回研究を進めて明らかになった。考慮すべき問題点が多いため、本年度中に研究を終結させることができなかった。現在英語による論文の出版を準備中である。また、その影響を受け、ペーター・シェーファーの挿絵入り出版物のカタログ・レゾネについても、当初の計画よりも遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、以下の課題を進めていく予定である。 -上記のカタログ・レゾネに含める作品を決定し、各作品のディスクリプションの草稿を書き進めていく。 -『マインツ本草』と『健康の庭』の調査結果をまとめた英語論文を完成させる。 -『聖地巡礼』(1486年出版)の調査を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国外出張における滞在日数を計画当初の予定よりも短縮することができたため、本年度の支出額が若干減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、主に図書の購入に充てるための物品費の支出が当初の計画よりも増額する見込みであるので、今回生じた次年度使用額をその支出分に充てる予定である。
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