研究課題/領域番号 |
15K16647
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
池田 真弓 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 講師 (70725738)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 美術史 / 書物史 / 書誌学 / インキュナブラ / 挿絵 / 植物 / ドイツ / 初期刊本 |
研究実績の概要 |
本年度は、先年度より取り組んできた、ペーター・シェーファー研究論文『健康の庭』(1485年)の挿絵についての研究論文を完成させ、ヨーロッパの査読付きジャーナルに投稿した。現在査読結果を待っている状況である。この論文の完成には予想以上の時間を要したが、これまでになく詳細かつ広範な分析をすることができた。とりわけ、以下の点について、本書の研究に少なからない貢献となったと考えられる。一つ目は、本書の挿絵を担当した主要画家であるErhard Reuwichの貢献部分についてで、これまでの研究では、どの挿絵が同画家によるのか曖昧にされてきたが、本論文で初めて一定の答えを提示した。また、複数の現存本の来歴に関する調査・分析をし、本書が当時、単なる医学書としてだけでなく、好奇心を持った知的階級にも読まれたであろうことを示した。この調査の過程で、本書が当時どの程度の貨幣価値を持っていたのかを明らかにしたのも重要な発見といえる。 また12月には、国際シンポジウム'The Book in Transition, the East and the West'(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート「西洋初期印刷本の書誌学的研究成果を統合する画像付きデータベースの構築」プロジェクトとの共催)を開催した。アジアと欧米の西洋と東洋の写本、初期刊本の研究者による最新の研究成果が披露され、本事業における重要関心事である、写本から印刷本への移行期に、本の見た目や受容のあり方にどのような変化が起こったのかについても議論と理解を深めることができた。極めて専門的な内容にもかかわらず、70名以上の参加があり、このテーマについての関心の高さを確認することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国際会議(シンポジウム)の準備に予想以上の時間が取られてしまい、そのほかの業務に十分な時間を充てることができなかった。また、育児休暇復帰直後は、子供が頻繁に体調を崩したため、研究時間が思うように確保できなかった。 ただし、最終年度に行う予定にしていた国際会議を、本年度に前倒しで行うことができたため、次年度は計画にゆとりができた。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、シェーファー作品のカタログ・レゾネの草稿作成の完成を第一の目標とする。 新たなケーススタディとしては、1486年出版『聖地巡礼』の調査・分析を進める。 また、研究がある程度まとまっている1459年出版『神的奉仕の規矩』については、論文の執筆依頼を受けているため、再調査を行い、論文を書き進める。 本事業の最終目標である研究書の執筆に向け、その構成案をまとめる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
出産・育児に伴い、毎年1回から2回予定していた海外出張を行うことができなくなり、その分が繰り越されたことが最大の理由である。また、当初より予定していた国際会議は、別資金との共催としたため、予想より費用が抑えられた点も挙げられる。 次年度は、書籍の購入のほか、論文出版に必要な費用(画像購入費など)や、データ整理を進めるための人件費、データ管理関連の機器の購入などに充てたいと考えている。
|