研究課題/領域番号 |
15K16647
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
池田 真弓 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 講師 (70725738)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 初期刊本 / 美術史 / 書物史 / インキュナブラ / 写本装飾 / ドイツ |
研究実績の概要 |
(1) 本事業の研究対象である、15世紀マインツで活動したペーター・シェーファーと、彼の共同経営者ヨハン・フストが共同で出版した書物で、彼らの初期の代表作の一つ、ギョーム・デュランティ著『聖務の理論』の装飾プログラムの研究結果を、「初期印刷本の装飾方法ー一四五九年マインツ出版『政務の理論』を例に」と題した論文として公表した。本論文では、フストとシェーファーが、この作品を装飾するにあたり、3種類のパターンを用意したことを確認し、その3種類目のパターンが特異な方法で装飾されていることを指摘した。具体的には、複数の装飾画家を動員し、それぞれの画家が分担し、型紙を用いてデザインを各ページに転写して装飾を行った、という方法である。この装飾方法の特異さについては、過去の研究でも言及されていたが、本論文では、細かな分析をもとに、転写方法や装飾画家の人数、作業分担法まで検討した。また、本書の装飾の調査から、フスト・シェーファー印刷所が、自身の出版物の「ブランド化」を図った可能性について指摘した。
(2) 1462年にフストとシェーファーが出版したラテン語聖書で、「フスト・マイスター」と呼ばれる画家が装飾した作品が複数現存するが、そのうち、個人蔵となっている一部を調査した。本作品の画像は入手していたが、実物を見ることで、この作品が、同画家の他の作品と比較してどのような位置付けにあるのかを確認することができた。これまで報告者が行なった研究では、本書が、フスト・マイスターが装飾した1462年聖書の中では「上の中」レベルの品質にあたると推察したが、今回の調査でそれを裏付けることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初目標にしていた論文1件の完成は達成できたが、昨年投稿し、残念ながら受理されなかった論文の見直しをすることができなかった。また、これまで進めてきた研究の結果をもとにし、研究計画を大幅に見直すこととしたので、事業の一年の延長申請を行い、受理されたところである。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 受理されなかった投稿論文の見直しと再提出を行う。 (2) 昨年調査を行なった1462年出版ラテン語聖書に関するデータの整理を進める。 (3) 変更した研究計画に沿って、これまでの研究結果の再構成を行い、研究書執筆に向け、必要な調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、概ね当初の計画通りの支出を行なったが、それ以前の年度で計画していた海外調査が、出産・育児のため実施できなかったため、その分が繰り越されている状況である。
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