研究課題/領域番号 |
15K16651
|
研究機関 | 京都嵯峨芸術大学 |
研究代表者 |
山本 友紀 京都嵯峨芸術大学, 芸術学部, 講師 (30537882)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 美術史 / 現代思想史 / 表象文化論 |
研究実績の概要 |
前半期にかけては、これまでの研究の進歩状況に照らし、必要な資料を把握するとともに、日本においては入手が困難である19世紀末から20世紀前半にかけての科学雑誌・写真専門誌・生物学に関する資料をリスト化した。夏季休暇中にはこのリストに基づき、フランス国立図書館およびフランス国立公文所館において調査を行った。さらに、20世紀前半の西欧における出版物のなかでも、とくに当時の機械技術の発達によって示された自然界の新しい視覚性を取り上げた芸術雑誌を調査した。 そのうえで、当時の機械技術の発達によって示された自然界の新しい視覚性を取り上げた芸術雑誌を調査し、それに対する芸術家・美術批評家の反応について考察した。 成果としては、まず、フェルナン・レジェの作品を故郷であるノルマンディーという土地との関係の中で解釈し、故郷での生活に触発されて生み出された彼独自の創造性を独自の自然観と関連付けながら論じ、共著『〈場所〉で読み解くフランス近代美術』のなかで「フェルナン・レジェとノルマンディー――故郷への追憶」として発表した。 また、1930年代フランスにおける装飾芸術観の形成と自然観の関連性について、装飾芸術家のシャルロット・ぺリアン、ピュリスムを中心とした制作活動を分析し、19世紀末以降展開を見せてきた「装飾」の概念とどのような関係性があるかについて考察し、その成果を論文「機械の美学と写真」として発表した。 さらに、今まで1937年のパリ博覧会に焦点が絞られてきた1930年代フランスにおける壁画を取り巻く言説と制作が、当時の文化的・政治的なイデオロギーと絡み合いながら発展していく過程を跡付け、この時代の壁画に与えられた複合的な意味づけを考察し、その成果を論文「1930年代フランスにおける壁画の特質と時代的意義――モダニズム芸術の社会性」にまとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究に必要な文献資料や図版などのデータはかなりの段階まで収集しており、その整理も順調に進んでいる。これらの資料に基づき、フェルナン・レジェやシャルロット・ぺリアンの事例研究を通じて、芸術における自然科学に関する知識・思想の受容の状況の一端は明らかとなった。 また、1937年のパリで行われた国際博覧会での壁画作品を分析し、それらが「フランス性」を示そうとする国家的戦略とモダニズム芸術を擁護する人民戦線の文化政策が入り組みあうなかで発注されていたことをパリの国立公文所館で調査した資料などを用いながら考察した。この研究成果は、すでに日仏美術学会例会で発表しており、さらに日仏美術学会会報に論文の形にして投稿し、掲載がすでに決定している。 このように個々の事例に関する自然観についての研究は進んではいるものの、その一方で、自然科学についての知識の全体像を把握するには至っていない。フランスの芸術界全体についてまで掘り下げて考察するためには、19世紀末から20世紀前半にかけて出版された自然科学を一般向けに紹介した文字媒体資料や図版のさらに広範な調査が必要である。また、収集した資料において言及される出版物や人物についてのさらなる研究も進めなければならない。 これらのさらなる資料を備えたうえで、1930年代の抽象芸術における自然観が、外界としての自然愛好、自然描写ではなく、生成原理のロゴスとしての自然のとらえ方が介入していた可能性について検証することができるものと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、これまでの研究進歩状況に照らして、三年目の研究計画および施設備品や書籍の購入計画の見直しを行う。とりわけ、当時の自然科学に関する写真集や雑誌などの資料に関して、日本で入手可能なものは速やかに購入し、海外渡航時の調査項目をリスト化する。それと同時に、海外渡航時の調査項目を整理し、海外渡航計画案(フランス)を作成する。 夏季休暇中には、フランス国立図書館、パリ国立公文書館、カンディンスキー図書館において資料収集を実施する。とりわけ、1930年代という時代状況の下における、抽象表現と総合芸術との結びつきと当時の自然観との関係性についての資料を重点的に調査する予定である。 夏以降、これらの調査によって得られた文献を整理したうえで丁寧に読み込み、これまでの研究成果ともつき合わせながら、抽象表現を志向した芸術家たち個人個人についての社会・政治的スタンスと自然観との整合性について検証する。さらに、抽象芸術を制作した作家たちの作品が、当時の美術行政官や美術批評家の間でどのように認知されたかについて考察する。この研究成果は、論文の形にまとめ、学会誌に投稿する予定である。 学年度末に3年間にわたる研究の総括を行う。
|