1930年代の抽象芸術における自然観には、混沌とした世界を秩序づけようとする「レアリスム」への志向とも関係があることを考察するために、アメリカで活躍したプレシジオニズムと呼ばれた芸術家たちの活動を取り上げた。大戦間期のキュビスムの受容の状況について、異なる芸術環境を持つフランスとアメリカとの間でそれぞれ独自の解釈がなされたことに着目し、プレシジオニストの作品は、「秩序への回帰」の動向という国際的な文脈の中に位置づけられながらも、アメリカ独自のレアリスムの概念と抽象芸術との間の特殊な融合によって進展するものであったことを示した。この研究成果は自らが企画した、国際シンポジウム「20世紀視覚芸術・文学における前衛的レアリスム(1914-68年)」において、「Between Realism and Abstraction: Dual Interpretation of Cubism in the Interwar Period」と題して口頭発表を行った。 また、本国際シンポジウムは、松井裕美氏、磯谷祐介氏とともに企画したもので、9月28日から29日にかけて、名古屋大学で開催された。このシンポジウムは歴史的な観点から「前衛」と呼ばれた動きの重層性を明らかにし、「後衛」との関係性を問い直すことを狙いとしたもので、3名の基調演者のロミー・ゴラン、サラ・ウィルソン、セゴレーヌ・ルメンに加え、国内外の9名の研究者、および企画者3人による発表が行われた。公募で募った研究者の中から選抜された国内外の9名の発表者によって、多様な時代・芸術家・テーマにおけるレアリスムが論じられるなかで非常に濃密で活発な意見交換が行われ、改めて「前衛」と呼ばれる芸術動向のダイナミズムが浮き彫りとなった。
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