研究課題/領域番号 |
15K16654
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
瀬谷 愛 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 主任研究員 (50555133)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 縁起絵 / 高僧伝絵 / 一遍聖絵 / 律宗 / 聖地 / 木挽町 / 模本 |
研究実績の概要 |
初年度となる27年度は、所属する東京国立博物館の館蔵品・寄託品を主たる調査対象とした。とくに鎌倉時代後期に成立した国宝「一遍聖絵」(以下、「聖絵」)を中心に取り上げ、関連する「遊行上人縁起絵」「因幡堂縁起絵巻」「熊野曼荼羅図」(クリーブランド美術館)などの作品調査、善光寺、熊野三山、大山祇神社などの現地踏査を行なった。一遍が遊行した重要聖地を実際に踏査することにより、制作背景となる信仰と人的ネットワークの広がりを実感し、新知見を得ることができた。 本年度の研究成果発表としての特集展示「一遍と歩く―一遍聖絵にみる聖地と信仰」(東京国立博物館本館2階特別1・2室、11月3日~12月13日)では、当館が所蔵する国宝「一遍聖絵」巻第7と近世木挽町狩野家絵師による模本、善光寺、熊野、石清水八幡宮などの関連する聖地、信仰の絵画、彫刻、考古遺物を展示した。会期中、講演会(11月7日)、ギャラリートーク(12月1日)を行なったところ、のべ500人の来場者があり、研究成果を広く伝えることができた。また11月15日には遊行寺宝物館、神奈川県立歴史博物館、神奈川県立金沢文庫と連携したシンポジウム「一遍聖絵の全貌」を東京国立博物館平成館大講堂で開催。歴史、宗教史、建築史、美術史研究者らとともに研究報告者、パネリストとして登壇した。研究報告では、「聖絵」で描き出される聖地の多くが中世律宗の拠点であり、一遍の活動範囲が叡尊、忍性ら律僧に近いことを示唆していること、すなわち念仏僧と律僧との緊密な関係が、このまれにみる優品の成立に関わった可能性を提示した。 また、「一遍聖絵」は「遊行上人縁起絵」に比べて同系の絵巻、模本が圧倒的に少なく、これまで当館所蔵の木挽町模本についても一般には知られてこなかった。本年度は聖絵から木挽町模本への流れ、聖絵の圧倒的独自性、その制作背景について新知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
作品の調査分析による成果だけでなく、聖地の現地踏査から得られた実景と図像との体感的比較による着想が、計画段階で予想された以上の研究成果をもたらしている。また、隣接分野の研究者との連携、国内外での作品調査により、研究の蓄積と次年度へのつながりを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
27年度に得られた成果を基盤として、引き続き国内外の作品調査、分析、現地踏査を推進する。とくに調査対象を密教系高僧伝絵、八幡縁起絵系統へと広げ、浄土教系高僧伝絵・縁起絵とともに重点的に行なっていく。また、27年度成果を学術論文として発信し、社会還元のための普及活動も行なう。
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備考 |
特集展示「一遍と歩く 一遍聖絵にみる聖地と信仰」に際して、広く一般向けに研究成果を平易に解説するブログを公開した。
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