最終年度となる平成29年度は、近世に制作された社寺縁起絵、高僧伝絵に対象を広げた。 五代将軍徳川綱吉、柳沢吉保の帰依を受けて浄厳が湯島に開いた、真言宗霊雲寺派総本山霊雲寺に関する文化財の調査成果を、特集「幕府祈願所 霊雲寺の名宝」(東京国立博物館本館2階特別2室、平成29年4月25日~6月4日)として広く一般に公開。成果はオールカラー、8ページのリーフレットを3000部作成し、来館者へ配布した。5月16日(火)にはギャラリートークを実施し、来館者へ直接報告した。関連として、福島・歓喜寺所蔵(福島県立博物館寄託)「光明曼荼羅」(霊雲寺開基浄厳款記)、「千葉妙見寺縁起」(寛文2年〈1662〉)の作品調査(8月10日)を行なった。 北区飛鳥山博物館が近年所蔵した「若一王子縁起絵巻模本」について調査を行なった(平成30年1月10日)。この絵巻の原本は、三代将軍徳川家光の命により、林羅山が詞を撰述、狩野尚信が絵を描いたことが知られる名品だが、遅くとも万延元年(1860)までには焼失したと考えられており、その良好な模本が東京国立博物館(狩野派か)、紙の博物館(板谷絵所)、そして飛鳥山博物館(住吉絵所)に保管されている。江戸時代に将軍が関与した縁起絵が御用絵師によって転写され、伝来した構造がよくわかった。この成果は、北区飛鳥山博物館春期企画展「徳川家光と若一王子縁起絵巻」(平成30年3月18日~5月7日)展覧会図録に寄稿した。 前年度に引き続き「一遍聖絵」に関連して、「法華経曼荼羅図」(富山・本法寺)ほかの作品調査を行なった。平成27年度成果の「一遍聖絵」シンポジウムにかかる書籍は、平成30年10月刊行予定で進行している。また、中世社寺縁起絵、高僧伝絵に関して、「箱根権現縁起絵巻」(神奈川・箱根神社)、「浄土五祖絵」「浄土五祖絵伝」(神奈川・光明寺)の調査撮影を行なった。
|