本研究は平安時代後半以降に盛んに集積された白描図像を基軸に、鎌倉時代以降の作例が豊富な、白描の手法による歌仙絵や物語絵を比較対象にしつつ、中世仏教絵画を捉え直すことを目指すものである。最終年度においては前年度に引き続き東京国立博物館や九州国立博物館などで展覧会調査や作品調査を行い、情報収集に努めたほか、研究の取りまとめを意識し、本研究期間中に行った作品調査や文献調査の成果の分析を試みた。そこから導きかれた研究成果は以下の三点である。 一点目は、白描歌仙絵・白描物語絵に見られる表現技法と比較することによって、院政期から中世前半の白描画の中で図像を捉えることができた点である。具体的には、個々の作品分析によって描線の特色と画題に一定の相関性が認められた。すなわち、白描図像特有の様式観の確立に展望が持てた点である。『大和文華』135号誌上にて成果を公表する予定である。二点目は白描の手法と密接に関わる「似絵」や、仏画における水墨技法の受容について考察できた点である。日蓮の肖像画を例に考察を行い成果を公表した。三点目は、平安時代後半に活躍した図像家である玄証や覚禅を起点とした画僧研究を通して、白描図像を描き手から考察することが出来た点である。ここから、画僧と絵仏師の違いや共通性、ひいては宮廷絵師との違いや共通性にも視野を広げることができ、横断的な考察が可能となった。さらには、個々の作例から得られる、制作に関わる人物を整理することで、白描図像を介した、学侶、画僧、絵仏師の人的ネットワークについて、その一端を明らかにすることができた。 こうした白描図像の美術史おける重要性については、帝塚山大学において行われた「市民大学講座」で発表する機会があり、成果公開を行った。
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