研究課題/領域番号 |
15K16658
|
研究機関 | 城西国際大学 |
研究代表者 |
瀧浪 佑紀 (滝浪佑紀) 城西国際大学, メディア学部, 准教授 (30631957)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 映画 / メディア / 戦前日本文化 / 戦後日本文化 |
研究実績の概要 |
三カ年を計画している本研究の1年目は、主として小津安二郎作品そのものを綿密に検証することを目指した。その成果として、サイレント作品を対象としてだが、小津後期作品までを射程に含めた〈視線の一致しない切り返し〉に関する論考“The Moment of Instability: The Textual and Intertextual Analysis of Ozu Yasujiro’s Passing Fancy”(『城西国際大学紀要』24号5巻(2016)、1-18頁)と、後期サイレント作品を対象としつつも、『晩春』や『麦秋』を含めた戦後の有名作品までを射程に収めた、小津の演出に関する論考「小津安二郎映画における〈演出〉の美学 ――1934 年から 1936 年までの作品とトーキー化の問題 」(『城西国際大学紀要』24号5巻(2016)、19-37頁)を論文として発表することができた。 また、小津と社会の関係を、作品分析としての綿密さを失わず試みた研究発表として、『風の中の牝どり』や『晩春』を論じた、「階段、暴力、結婚――キング・ヴィダー『結婚の夜』ならびに小津サイレント作品を背景とした、小津安二郎戦後作品の考察」(表象文化論学会第10回研究発表会、東京大学、2015年11月)などを行い、主として作品分析を行いながら、小津作品とコンテクストの関わりまで考察の地平に含めた研究を進めた。加えて、映画、メディア、社会の関係について考察した、古典的文献、最新の研究成果、同時代の一次資料の読解を進め、次年度以降の研究の準備を進めた、
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先述したように、初年度は小津安二郎の作品分析に関する二本の研究論文を発表することができ(“The Moment of Instability: The Textual and Intertextual Analysis of Ozu Yasujiro’s Passing Fancy”『城西国際大学紀要』24号5巻と「小津安二郎映画における〈演出〉の美学 ――1934 年から 1936 年までの作品とトーキー化の問題 」『城西国際大学紀要』24号5巻)、この点において、十分な成果が上がったと言える。これらの研究では、サイレント作品を扱いながらも、いずれの最終章も、小津の戦後作品までを射程に収めた議論を行っている。 加えて、先述の研究発表(「階段、暴力、結婚――キング・ヴィダー『結婚の夜』ならびに小津サイレント作品を背景とした、小津安二郎戦後作品の考察」表象文化論学会第10回研究発表会、東京大学、2015年11月)に加え、その準備段階でさまざまなアイディアを盛り込んだ研究発表「戦後小津安二郎作品におけるヴィダーへの参照についての考察」城西国際大学メディア論研究会、城西国際大学、2015年10月も行った。これらの発表は、戦後作品の綿密なショット分析の成果である。 以上のように、当初の計画通りに研究を進めているが、論文や研究発表として成果を出すことには至っていないものの、将来の研究への基礎となる、映画、メディア、社会の関係について考察した、古典的文献、最新の研究成果、同時代の一次資料の読解も進めている。さらには、小津戦後作品のテクスト分析も行い、大島渚、吉田喜重、篠田正浩の作品など、小津以降の松竹作品(小津と対比される松竹ヌーベルバーグの作品)の分析も進め、小津と戦後の関係をより包括的に研究・考察する準備を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度以降は、昨年度の小津の作品分析の成果を基礎としながら、社会の中で映画が占める役割および映画作家の位置に関する文脈分析、以上の作品および文脈の分析を通じた、戦争(とトラウマ)および戦後大衆文化に対する小津の姿勢という特定の論点に関する考察といった、映画、映画作品、社会、メディアの関係を包括的に論じることを目指す。研究課題としては、(1)1930年代後半から1940年代前半の戦中期の作品(小津と戦争の問題)、(2)戦後小津作品における戦争の取り扱いの問題、(3)1950年代後半以降の小津作品と大衆文化(とりわけ小津と戦後若者文化の関係)といった問題も考えたい。 今後の推進方策としては、現在のところ、小津作品そのものに対する緻密な分析は、すでにかなりの程度進展しており、また今後も継続して、さらに精緻化を図っていく。加えて、小津周辺の同時代作品に関しても、1950年代の左翼映画、メロドラマ、1960年前後のヌーベルバーグを中心に考察を進めている。こうした研究を継続することで、小津の作品分析だけでなく、同時代作品との比較を通じて、小津映画の歴史的含意について考えることを計画している。また、同時代の批評なども積極的に参照し、小津の作品分析にとどまらない、コンテクストの分析にも着手し、小津と社会の関係をメディア論的射程から考察する。とりわけ、小津の戦中作品に関しては、戦争下において映画が置かれた状況、映画に関する法律・制度などの考察を含め、十分な文献調査を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末に計画していた海外国際学会出張が、校務との兼ね合いで出席不可能となってしまった。そのため、当該使用金額の変更は、出張のために確保していた旅費を支出していないことによる。
|
次年度使用額の使用計画 |
例年3月に開催される海外国際学会への出席を計画している。例年、北米で開催されることが多いが、今年度も米国で行われる予定である。また、引き続き、必要な資料の収集にも努め、研究を進める。
|