研究課題/領域番号 |
15K16658
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研究機関 | 城西国際大学 |
研究代表者 |
瀧浪 佑紀 (滝浪佑紀) 城西国際大学, メディア学部, 准教授 (30631957)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 映画 / メディア / 戦前日本文化 / 戦後日本文化 |
研究実績の概要 |
本年は本研究プロジェクトの3年目にあたる。3年目の研究として、小津作品そのもの(1年目の成果)および小津作品周辺のコンテクスト(2年目の成果)を包括的に考察することが試みられた。 本年の研究内容は、まず第一に、小津作品が同時代的にどのように受容されたかを検証するために、『キネマ旬報』や『映画評論』などの映画雑誌をあらためて精読し、とりわけ巨匠・映画作家小津という像がいかに1940年代後半から1950年代にかけて構築されたかを同時代批評から読み解いた。 第二に、本研究で明らかにしている戦中・戦後の小津作品と歩みを、1920年代以降の小津の全フィルモグラフィーのなかで位置づけるために、主としてサイレント映画を中心とするモダニズム期と、トーキー映画を中心として「日本的映画作家」としての評価が確立される戦中・戦後期とのあいだの共通点および相違点を検証している。この考察については、大衆娯楽としての映画の社会的地位、検閲システム、イデオロギー装置のしての映画の役割など、社会的コンテクストのなかで考察される必要があり、本研究では小津研究という切り口から、日本映画史や日本近代史の考察を進めた。 最後に、1950年代中盤以降の小津後期から始まる日本映画全体の変化として、大島渚や吉田喜重をはじめとするニューウェイヴ映画の台頭、戦後民主主義体制と高度経済成長、テレビという対抗メディアの出現を、巨匠・小津安二郎という視点を通じて捉え直す研究も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年は小津作品分析とコンテクストの分析を総合させることで、小津作品の映画美学としての価値を再評価するとともに、より多面的なメディアとしての小津作品の意義について検証している。その作業として、小津に関する言説を同時代の映画批評誌を中心に、あらためて戦前から戦中・戦後にかけて網羅的に調査できたことは本年の成果である。これに関しては、目録を作成し、資料としての価値も高めている。 ただし、この研究を生かして、論文や著作などのかたちで成果を発表できなかった点は残念であった。この意味で、本研究は「やや遅れている」ことが否めない。しかしながら、研究は確実に進めており、近い将来、論文や著作として、本研究の成果を公表できるように進めている。小津安二郎は日本を代表する巨匠監督であり、その作家論をまとめるには綿密な調査・分析と十分な慎重さが求められる。これに耐えうる成果を出すべく、研究を継続している。 また、1950年代以降の戦後日本の民主主義・若者文化・メディア地勢図の変化という文脈で、小津を含めた松竹映画の検証についても、大島渚や吉田喜重をはじめとするニューウェイヴ映画作家の作品を、とりわけテレビという同時代の新しいメディアおよびそれに伴う社会構造の変化と関連付けて、調査・分析を深めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進む方向としては、まず小津作品の分析と社会的コンテクストの検証を総合させ、さらに戦前の小津作品との連続・不連続までを視野に入れた作家論を、論文や著作のかたちで完成させることを目指している。日本映画の巨匠についての作家論であるため、完成までに時間がかかっているが、現在急ピッチで完成を急いでいる。 また、狭義の小津論にとどまらない戦後日本メディア論として、松竹ニューウェイヴとテレビにかんする研究や、その文脈における映画というメディアの役割の変化、映画作家のあり方の変化についての研究も継続し、論文執筆や学会研究発表をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議に出席をする予定だったが、大学での公務との調整がつかず、延期をした。ひきつづき、国際会議への出席をおこなう計画である。
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