本年は小津安二郎に関する研究をまとめるために、本研究「映画作家、メディア、社会――戦中・戦後の小津安二郎作品」を、2015年までにおこなった科学研究費の支援を受けた研究プロジェクト「『動き』と『明るさ』の美学――小津安二郎初期映画と戦間期日本における映画言説」(とくにサイレント映画が主題)と総合し、2019年度中に出版を予定している単著(小津のサイレント映画美学が主題だが、戦中・戦後作品についても十分に言及し、日本映画、社会、メディアとの関連において小津作品と小津の映画美学が持つ原意について論じる)の用意をすすめた。同時に、これは今までの研究を見直し、膨大な資料や作品への再確認の作業でもあった。新しい論文や研究発表というかたちでのアウトプットはなかったが、研究の蓄積につとめ、近いうちに研究成果として発表されるためには必要な作業をおこなった。 また、一般向け講演として、小津安二郎生誕の地である江東区の古石場文化センターにおいて、全5回にわたる市民講座「本当は怖かった小津映画」を、サイレント作品から戦後後期作品までを縦断して論じたを担当し、研究の社会に対する還元につとめた。市民講座に出席した方々との意見交換を通じて、狭い意味でのアカデミックな研究にとどまらない小津作品が現代社会において持つ意味と芸術性(および娯楽性)について、広い視野から考察する機会となり、さらには研究の社会発信というかたちで社会貢献ができた。
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