研究課題/領域番号 |
15K16660
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
井戸 美里 京都工芸繊維大学, グローバルエクセレンス, 講師 (90704510)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本画 / 歴史画 / 花鳥画 / 東京美術学校 / やまと絵 / 朝鮮美術 |
研究実績の概要 |
本研究では、大画面の「やまと絵」の遺品が多く残されている室町時代から国家的な歴史画を描く「日本画」に至るまで、「日本的なるもの」として受容されてきた美術作品(特に屏風絵)について、その享受された場やその機能について再検討を行っている。本研究は科研費補助金に採用中の「国際共同研究強化」(2016-2018)と並行して行う研究となる。 本年度は明治期の日本画を中心に研究を進めた。国際共同研究においては、日本画のなかでも、当時日本から朝鮮半島に渡って日本画の制作を行った画家の作品を考察し、東アジアで共通して描かれる花鳥図という主題について再検討を行った。一方若手(B)では、特に明治期の「歴史画」の概念について、東京大学駒場博物館所蔵、第一高等学校伝来の日本画を継続して考察を行った。開校間もない東京美術学校に関わりの深い画家たちによって描かれたこれらの歴史画は、一高より発注を受け、アーネスト・フェノロサや岡倉覚三の目指した西洋美術のジャンルにおいて高いヒエラルキーをもつ「歴史画」が日本に移入されたことを例示するごく初期の作品群であることを論じた。その成果については、ヨーロッパにおいて三年に一度開催される日本研究に関する学会(EAJS)において、今年度の視覚芸術のテーマであった「マテリアリティー」という観点から一高伝来の「歴史画」について報告を行った。歴史的人物像、特に南朝方の護良親王や楠木正成が再評価され絵画化されていく思想的背景について考察するとともに、一高の歴史画がいわゆる西洋より移入された思想や技法を駆使することによって「国民的主題」へと昇華し、公的な空間へ展示されるべき大画面のマテリアリティーを保有するべく制作された可能性について指摘した。また10月から12月にかけて、特別展示を駒場博物館にて担当し、シンポジウムを開催、駒場祭においては一般の方向けの公開講座も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は「国際共同研究強化」と並行して行うことにより、国内外の美術館・博物館に所蔵されているやまと絵屏風や日本画の作品の調査が可能となったこともあり、実際の作品調査や報告活動を円滑に行うことができている。また、本研究の成果報告については、日本国内においては展覧会とシンポジウム、公開講座を開催することができたためこれまで知られてこなかった西洋美術のジャンルを移入した明治期の「歴史画」の萌芽期の作品を広く公開することができた。また、三年に一度の日本研究の国際学会でも発表を行うことができたことで、よりグローバルな視点から日本画研究を考える貴重な機会となった。以上のような点から本研究は当初の計画よりも順調に研究を行うことができていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は東京大学駒場博物館所蔵・一高伝来の歴史画について、昨年度までの研究に引き続き考察を加えたものであったが、展覧会やシンポジウムなどが中心となったため、現在、新たにこれらの歴史画制作のための模範となった作品や現物の写生について考察を進めている。また、昨年度と本年度にかけて開催してきた東アジアの庭園と絵画に関するシンポジウムについての出版を行う予定である。最終年度の新たなテーマとしては、描かれた風景、特に「名所」の概念について平安時代からの和歌や文学作品と関わりの深い風景を描くやまと絵屏風についてまとめていきたいと考えている。7月には名所に関するシンポジウムを企画しており、美術・写真・文学・都市・建築の分野から一人ずつテーマ提供を依頼し、共同研究の可能性を模索する。11月にはハーバード大学にて本テーマについて、今度は文化的・宗教的・政治的などそれぞれのコンテクストを検証することで風景がいかに名所として表象されているのか、ということを国際シンポジウムにおいて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に物品購入のための経費を必要とするため
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