日本的な主題を描く「やまと絵」の遺品が多く残されている室町時代の屏風絵を中心に、享受された場やその機能について再検討を行っている。本研究は科研費補助金「国際共同研究強化」(-2018)と並行して行う研究であるが、本年度は国際共同研究強化の最終年度にあたるため、8月中旬より7ヵ月間ハーバード・イェンチン研究所にて在外研究を行った。 本年度は、室町時代のやまと絵屏風、特に自然の風景を描く四季絵について、描かれた主題やモティーフ分析を通して、そこには古くから詠まれた和歌や漢詩などの言葉が内包されており、室町時代のやまと絵屏風に平安時代の屏風歌の伝統が濃厚に受け継がれている可能性について指摘した(英国のセインズベリー日本文化芸術研究所における国際シンポジウムDisplay as Ensembleにおける口頭発表”Depicting Nature: Screen Paintings for Meeting Hall” 2018年5月)。さらに、やまと絵屏風の受容空間について、庭園の存在の重要性について確認した。「四季花鳥図屏風」(サントリー美術館蔵)や「浜松図屏風」などに描かれるモティーフは現実の庭園の前栽の植生と一致すると言われてきたが、平安時代より詠い継がれてきた和歌や漢詩の言葉は庭園の前栽の風景を彷彿とさせるものである。実際に、室町時代に入ってからも庭園を目の前に和歌会などが行われてきた実態を確認するとともに、庭園の風景を写したかのようなやまと絵屏風の存在は、単に実景の再現ではなく、和歌の言葉を紡ぎ出すためのスクリーンとしても機能していた可能性を指摘した。これらの研究成果については、昨年度までに行ってきた二回の国際シンポジウムをもとに『東アジアの庭園表象と建築・美術』(昭和堂、2019年)として編集し、「共鳴する庭園と絵画」と題して論文を収録した。
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