2019年度の前半には、フランスの写真表現が日本の1950年代の写真文化に与えた影響について、引き続き検討を行った。フランス国立図書館、東京都写真美術館ほかで資料調査を行い、1950年代の日本とフランスの写真雑誌・カメラ雑誌にどのような類似点と相違が見出されるかについて分析した。木村伊兵衛に対するアンリ・カルティエ=ブレッソンの影響については先行研究でもしばしば指摘されてきたが、当時のフランスではカルティエ=ブレッソン以上に人気があったロベール・ドアノーと木村の関係については十分に検討されてきたとは言い難い。そこで本研究では、ドアノーの日本での受容、および、木村がドアノーをどのように評価してきたか、といった問題に焦点を合わせて資料調査を行った。得られた知見については寄稿依頼を受けた論文集に発表予定であり、論文の草稿も完成させたが、論文集自体の出版企画が中断したため、編者の新たな指示を待っている状態である。 2019年度前半には、1950年代と1930年代の日本のアマチュア写真文化の連続性についての補足調査も合わせて行った。1950年代のスナップ・ブームは同時代の「生活記録」の流行と同時代的な親近性を有していたが、他方で、1930年代半ばに至るまでの戦前のアマチュア写真の言説から依然として強い影響を受けていたことが明らかになった。 2019年度後半には、本研究課題で得られた知見を元に論文の執筆を行った。論文は、現在準備中の日本写真史についての単著のうち主要な部分を構成する。単著は2020年度中の出版を目指して、担当編集者ともに作業を進めているところである。
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