研究課題
小津安二郎とその映画については、従来は映画を丹念に「見る」ことから、多数の論考が重ねられてきた。これに対して本研究は、映画ができるまでの過程に注目する。一次資料、とりわけ、小津による「直筆ノート」や日記、台本へのメモ書き、絵コンテなどの直筆資料を対象として、映画がいかに成立したのかを明らかにしようとするものである。本研究の前段階となる過去の調査では、小津と親しくしていた作家の台詞への助言が、『早春』(1956年)に複数採用されていたことが確認できた。このように、映画を見るかぎりでは明らかにならない背景を精査し、今日、「巨匠」として流通する小津とその映画の再検討を進めてゆく。2015年度は、4月より資料寄託先のリスト化を進め、松竹大谷図書館・川喜多記念映画文化財団・個人宅を中心に分析・検討を進めた。並行して、三重県松阪市をはじめとする新規調査先において、寄託資料の概要確認と今後の研究体制構築を進め、12月より本格的な調査・分析に着手した。この過程で、既存の文献資料からは判明しない箇所に関しては、制作に関わったプロデューサーや助監督にご協力いただき、教示を得た。以上の成果として、論文では、「はじまりとしての『晩春』」(青土社『ユリイカ』、第48巻第3号)ほか1件、口頭発表では、 Society for Cinema and Media Studies 2016 Conference(アメリカ・アトランタ)での「 Face Covering: Tokihiko Okada in Ozu’s Early 1930s Films 」をはじめとする8件を提出・報告した。このうち、口頭発表には、日本近代文学会、表象文化論学会等、所属学会・研究会のほか、一般を対象とする講演・研究会が含まれる。それぞれ活発な意見交換がなされ、今後の研究調査・発表方法について貴重な教示を得た。
2: おおむね順調に進展している
資料調査・成果報告とも順調に進んでいる。調査を進める過程で、当該資料を検討するために新たな調査・内容確認の必要が生じ、これらにかける時間が必要となった。
東京における資料調査は2015年度にほぼ完結しつつある。2016年度は、新たに構築した三重・京都における研究協力体制を基盤として、小津の松阪滞在時資料の調査・解読を進め、その全体像を明らかにしたい。
研究計画に従って使用していたが、最終残額に関しては、それ自体を旅費ほか物品購入費にあてることができなかった。
当初の計画に基づき、合算できる場合には本研究において必要となる旅費の一部として使用する。
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『ユリイカ』
巻: 第48巻第3号 ページ: 100-108