研究課題/領域番号 |
15K16672
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宮 信明 早稲田大学, 坪内博士記念演劇博物館, 助教 (50636032)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 正本芝居噺 / 芝居噺 / 落語 / 演芸 / 大衆文化 / 怪談噺 / 講談 / 日本文学 |
研究実績の概要 |
現在、廃絶の危機にある正本芝居噺(道具入り芝居噺)の記録・保存と調査・研究を目的とする本研究では、平成25年度より東京文化財研究所において継続的に実施している正本芝居噺映像記録会を、唯一の継承者である林家正雀師匠のご協力のもと、今年度も9月19日(火)と12月22日(金)の2度にわたって開催した。第1回目は「中村仲蔵」を素噺で、「戸田の渡し」を正本芝居噺で、第2回目は「大仏餅」「名月若松城」を素噺で、「引窓与兵衛」を正本芝居噺で実演していただいた。この結果、前年度までに作成した「怪談累草紙」「真景累ヶ淵 水門前の場」「鰍沢」「双蝶々」「粟田口霑笛竹 国府台の場」「怪談牡丹燈籠 幸手堤の場」「戸田の渡し」「引窓与兵衛」に加えて、新たに2本、計10本の映像が記録・保存されることとなった。今後、これらの映像資料は正本芝居噺を継承・研究するうえでの重要な基礎資料となるだけでなく、寄席芸能における下座音楽や舞台美術に関する基本的な知見にもなるだろう。また、今年度も研究協力者の飯島満氏(東京文化財研究所無形文化遺産部部長)のご尽力により、記録会が一般に公開されたことは、芸能を記録するという側面からも、成果を広く公開するという観点からも、非常に有意義な試みであったといえる。 また、昨年度からの継続課題として、今年度も、速記本や点取りと呼ばれる演者自筆の覚書、八代目林家正蔵が下座や黒衣のために用意したキッカケ帖などの文字資料とともに、浮世絵や挿絵、寄席ビラなどの絵画資料の分析を行った。さらに、正本芝居噺には欠かすことのできない寄席囃子の歴史や囃子方を調査するとともに、今年度は、大阪府立上方演芸資料館(ワッハ上方)において資料調査を実施し、上方の芝居噺と江戸の芝居噺の比較研究にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①正本芝居噺を記録・保存するとともに、研究成果を広く一般に公開するために、東京文化財研究所において年度ごとに2回のペースで、林家正雀師による正本芝居噺映像記録会を開催する。②速記本や点取りと呼ばれる演者自筆の覚書、また八代目林家正蔵が下座や黒衣のために用意したキッカケ帖などを中心に、文字テクストの分析を行うとともに、当時の新聞や雑誌、単行本を博捜することによって、いまだ報告されていない同時代の証言を発掘する。③林家正雀師匠(噺家)、三代目八光亭春輔師匠(噺家)、田中ふゆ氏(下座・三味線)、林家彦丸氏(噺家)、古今亭志ん吉氏(噺家)、山本進氏(芸能史研究家)などの実際の上演に携わった演者や下座、後見や道具方に対する聞き取り調査を行い、文字資料の空白を埋める。④16mmフィルムに残された「芝居噺 林家正蔵の会」のオリジナル映像を考証する。 上記、本研究課題の具体的な研究方法①~④の内、①~③はおおむね順調に進展している。①については、今年度も2回の記録会を開催し、これまでに計10本の記録映像を作成した。②についても、昨年度より開始した浮世絵や挿絵、寄席ビラなどの絵画資料の調査において新たな資料の発見があるなど、おおむね順調に進展している。③については、林家正雀師匠を中心にオーラル・ヒストリーの収集を実施してきたが、今後は囃子方や後見なども含めて、より広範囲に聞き取り調査を行う予定である。④については、現所蔵者が多忙ということもあり、オリジナル映像の考証に着手できていない。早急にスケジュール調整を行い、まずは16mmフィルムのデジタル化作業を実施したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の研究方法①~④にそって今後の研究の推進方策について報告する。 ①正本芝居噺映像記録会については、平成30年度も引き続き東京文化財研究所において2度の記録会を開催する。1回目は6月13日(水)に決定、2回目は11月中旬から12月中旬の開催を予定している。なお、1回目の正本芝居噺の基本となる演目「芝居風呂」の映像記録作成を予定している。 ②文字テクストの分析については、八代目林家正蔵が「立ち回りの基本ともいうべき噺」とする「芝居風呂」、さらに昭和25年に神田立花で芝居噺として初演された村上元三作「五月雨坊主」を取り上げる予定である。特に「五月雨坊主」は、昭和20年11月に雑誌『講談倶楽部』に掲載された小説であり、小説と八代目正蔵及び正雀の正本芝居噺とを比較することによって、口演ごとに変化する流動性と、何度演じても変わらない固定性を抽出したい。それは、一回性や即興性を重要な要素とする噺という対象への、よりいっそう実証的な研究を可能にする筈である。 ③聞き取り調査については、田中ふゆ氏(三味線)や古今亭志ん吉氏(笛)にお話を伺うことによって、寄席囃子の歴史や系譜、特徴を明らかにするとともに、正本芝居噺と下座音楽との関係について、オーラル・ヒストリーを収集する。 ④「芝居噺 林家正蔵の会」の考証については、現所蔵者とスケジュール調整を早々に行い、16mmフィルムのデジタル化作業に着手する。
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