今年度の本研究は、第一に博覧会とプレ・シネマの関係について、初期映画と現代のモーション・シミュレーター・ライドにおける、非分節ショットの共通性という観点から考察をおこなった。また、第五回内国勧業博覧会に関連する資料の調査から、パビリオンの一つである不思議館で上映された初期映画について、具体的な作品等を明らかにした。これらの研究成果については、「明治期のヴァーチャル・リアリティ ―汽車活動写真館にみる非分節ショットへの回帰-」として論考にまとめた。本稿は、『スクリーン・スタディーズ(仮)』(東京大学出版会)に所収の予定である。第二に、幻燈とプレ・シネマの関係について、映画輸入以前から日本の幻燈産業が集積していた浅草の地域性と、その後の同地における映画館街形成の連続性という観点から、前年度より継続して研究をおこなった。これらの研究成果については、「写し絵 上演解説」(展示会「浅草文芸と出会う」、浅草ブレーメンハウス)および「浅草の映画館と幻燈文化」(国際シンポジウム「日本のスクリーン・プラクティス再考:視覚文化史における写し絵・錦影絵・幻燈文化」、早稲田大学)として口頭発表した。また、無声映画と口頭芸、劇場文化の関係について、前年度の課題を引き継いで研究をおこない、大正期の映画形式と連鎖劇の関連性をまとめ、「大正期の映画と演劇の形式的連関 ―日活向島と連鎖劇を中心に―」(日本演劇学会近現代演劇研究会、大手前大学)として口頭発表した。
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