H30年度は最終年度ではあったが、亡命ロシア人芸術家たちを取り巻く環境が急速に変化している状況を考慮して、芸術家たちへの聞き取り調査、および状況の把握と資料収集の強化にも重点を置くことにした。収集した資料の整理と研究に関しては、年度前半はH29年度から継続しているタミズダート(亡命ロシア)誌『A-YA』や『第三の波』(亡命ロシア芸術に関する部分)の読解と分析、およびソ連非公式芸術の収集と収集家たちに関する資料読解と研究をすすめた。年度後半は、亡命芸術家たちが雪解け期から1960年代にかけての創作初期に手がけた作品(主に絵画)における宗教的なモチーフに関する研究を進め成果発表に向けた準備をおこなった。これらは2019年度中に論文を発表予定である。このほか『ロシア文化事典』(2019年刊行予定)に「雪解け期の映画―ソ連のニューウェーヴ」の項目を執筆した。 8月後半から9月中旬には、本課題の発展形である国際共同研究の出張と関連してモスクワで亡命雑誌関連の資料収集を行った(国立図書館、モスクワ現代美術館図書館など)。3月にはモスクワで対象となるアーティストへの聞き取り調査を実施し、ソヴィエト非公式芸術を研究する美術批評家、同時代に国内で活動した芸術家たちへのインタビューもおこない、調査に関してはまとまった成果が得られた。これらの資料の整理、公開、成果発表は、国際共同研究の進行と合わせて2019年度も引き続き進めていく予定である。また、調査対象の芸術家たちが出展した、もしくは関連する戦後美術を扱った国内の展覧会においても、作品鑑賞および比較研究の材料となる資料収集を行った(大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ、「美術への挑戦」展など)。
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