本研究は、現代のポストヒューマン論にまでつながる、20世紀半ばのアメリカ心理学における心の自律と制御をめぐる動向を明らかすることを目的としている。2017年度は、昨年度までの研究を継続して研究を進め、発表、刊行を行った。 20世紀半ばアメリカの心理学などの人文社会科学の展開が、メディアやマス・コミュニケーションをめぐる戦後日本の学術状況へと結びついていった状況を検討する研究を行った。その成果を、論文「「送り手」「受け手」の誕生 : 南博の社会心理学と戦後日本におけるマス・コミュニケーション研究成立の一側面」にまとめた。「送り手」「受け手」概念は、ときにシャノン=ウィーバーの情報理論と結びつけられてきた。20世紀半ばのアメリカにおける情報理論やサイバネティクスの登場は、キャサリン・ヘイルズなどの研究者がポストヒューマンをめぐる議論を立ち上げる契機となっているものである。実際には、「送り手」「受け手」概念は、アメリカのコミュニケーションと記号をめぐる哲学と社会心理学が戦後に受容される状況と、日本における学術用語をめぐる状況から作り出された可能性を指摘した。 初期のパブリック・リレーションズ実践者・理論家であったエドワード・バーネイズのPRを、時間的経過のなかで機能するものとして記述し、また同時代の心理学など社会科学との繋がりを検討する研究を行った。その成果を、「時間のなかでの行動のコントロールとしてのパブリック・リレーションズ――エドワード・バーネイズの実践から」として発表した。 現代の人文社会科学における空間論的展開で取り上げられる「認知地図」概念を、その起源である20世紀半ばの行動主義心理学から認知心理学への展開から捉え返そうとする研究を行った。その成果を、「都市映画論の分析枠組みとしての空間論的転回と認知地図論」「戦後大阪映画の認知地図、盛り場の遊歩者」において発表した。
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