平成29年度は実施計画最終年度にあたり、これまでの調査の継続とそのとりまとめの作業を行うことになった。平成28年度からの継続調査として福永武彦と雑誌メディアとの相関関係の解明を目的とした初出資料の取集にあたった。具体的には『福永武彦全集』(新潮社)に未収録の文献調査として国立国会図書館、神奈川近代文学館に赴き調査を行った。小説を中心に初出掲載誌を丹念に調査し、また全集未収録となった童話などの収集を行った。特に、加田伶太郎名義での探偵小説、および『愛の試み』としてまとめられる随筆の初出掲載誌を確認し、タイトルの変遷を含めた出版状況を、雑誌広告などを利用しながら確認した。また福永武彦生前の関係者からの聞き取り調査を行うため、福永武彦の限定出版物を取り扱ったプライベート・プレスの関係者の方にお話を伺った。限定出版の計画当初の作家を取り巻く状況など詳しい事情を知ることができた。また、福永武彦研究会で催された福永武彦の生前の関係者の方による講演会等へ赴き、直接お話を伺う機会を得た。調査の結果等を踏まえ、福永武彦と雑誌メディアとの関係、およびその背後に存在する戦後日本の活字文化における流行の移り変わり等を俯瞰的に確認できるように、福永武彦の書誌年表の作成を行ったが、小説・随筆等で初出が確認できないものもいまだ存在し、こうした書誌年表を完全な形にするためには、今後さらにより詳細な調査が必要になると考える。
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