本年度の主な研究実績としては、まず「持明院統の院と新宮御神楽」(新潟大学人文学部『人文科学研究』第141輯、平成29年11月)および「後醍醐天皇と内侍所御神楽」(日本歌謡学会『日本歌謡研究』第57号、平成29年12月)をあげることができる。本研究課題の宮廷の御神楽をめぐっては、研究代表者を含めて、これまで平安期を主たる研究対象としてきたが、今回の2つの論考では鎌倉後期から南北朝期という時期を扱っている。今年度は本研究課題の最終年度であったが、これまでの成果を踏まえつつ、さらに対象とする時代を広げることができた。今後は、南北朝期から室町期における内侍所御神楽も研究対象に収めつつ、新たな視点で研究を進展させる予定である。 さらに、一般向けの共著として『古典文学の常識を疑う』(勉誠出版、平成29年5月)が出版され、その1項目として執筆した「中世歌謡は信仰とどのように結びついていたか」も発表された。内容は一般向けだが、本研究課題に密接に関係するテーマであり、国文学分野だけでなく、他分野の研究者も読者に想定した内容となっている。 また「第3回上代文学会夏季セミナー(平成29年8月23日、早稲田大学)では「上代の芸能と楽書」と題した報告を行っている。中世の代表的な楽書である『教訓抄』から伎楽」の項目を取り上げ、これまで『日本思想大系』などの活字本に拠って研究が進められてきたために、写本に含まれる多くの情報が見落とされた事実を明らかにした。その上で、宮内庁書陵部図書寮蔵本の「伎楽」の項目を丁寧に読み解き、従来の研究にはない知見をいくつも提示することができた。 なお本報告は、上代文学会夏季セミナーブックレット『芸能と歌謡―上代の芸能研究の方法と方向』(笠間書院、平成30年度刊行予定)にて「上代の芸能研究における楽書――宮内庁書陵部蔵『教訓抄』の伎楽」として公刊される予定である。
|