研究課題/領域番号 |
15K16680
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
鈴木 暁世 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (60432530)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 日本近代文学 / 比較文学 / 農民文学運動 / 社会運動 / 演劇 / 東アジア / アイルランド / 植民地 |
研究実績の概要 |
大正・昭和期における日本の農民文学運動について、アイルランド・英文学と日本との関わりに関する資料、植民地朝鮮における農民文学関連資料の調査・収集・整理を行い、農民文学をめぐるアイルランド‐日本‐朝鮮の相互交渉を実証的に明らかにし、東アジアとアイルランド文学の相互影響に対して未開拓な事例を発信した。研究実績の概要は以下の三点に集約される。研究成果は論文化して、共著単行本として刊行する予定である。 1. 韓国国立図書館、国立ソウル大学校、高麗大学校で実施した『朝鮮及満州』『京城日報』等の調査結果を整理・分析した。現地調査及び知識伝授に関しては高麗大学校・金孝順氏の協力を得た。日本比較文学全国大会(6月)において、中根隆行氏・金牡蘭氏と共に、ワークショップ「アイルランド文学と東アジア-農民文学と植民地表象をめぐって」を企画し、研究発表「農民文学運動における「地方」の問題―「モデル」としてのアイルランド―」を行い、農民文学における植民地表象の問題を明らかにした。 2.農民文学運動におけるアイルランド劇の受容に関しては、作品間の影響関係を具体的に明らかにし、第37回関西アイルランド研究会(9月)にて研究発表を行ったほか、アイルランド文学研究会(5月、8月)において議論を重ねた。 3.農民劇場の実践に関わる研究では、金沢大学人文学類シンポジウム「読みかえる,書きかえる―文学の越境と変容」(7月)において口頭発表「教育装置としての演劇―アイルランド演劇運動から日本における翼賛運動へ」を行い、農民劇と「翼賛運動」との関連を、中村星湖の評論及び伊藤松雄「町の劇場・村の劇場」運動から検討した。福岡県「嫩葉会」に関しては、福岡県うきは市における資料調査(6月)、神奈川近代文学館における資料調査(11月)を行い、研究成果を日本ケルト協会主催ケルト・セミナー(6月)において発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.ワークショップの開催と研究ネットワークの構築:金牡蘭(研究協力者)らと共に日本比較文学会全国大会において当該研究課題のワークショップを企画・開催し、広く研究成果を発信すると共に専門家らと意見交換し、研究ネットワークを広げるという研究計画は達成できた。さらに、研究会を組織・開催(アイルランド文学研究会を2回開催)して関連分野の研究者と継続的な討議を重ねることに努めた。関西アイルランド研究会、日本ケルト協会、日本ケルト学会東京研究会等当研究課題と密接に関わる研究会・学会に招聘され、研究成果を連続して発表したことで最新の研究動向を把握し、Irish Agricultural Organization Society及びIrish Homestead等の調査結果に関して専門知識の伝授を受けた。 2.関連資料の調査と整理:福岡市図書館等における福岡県浮羽郡の農民劇場「嫩葉会」会報の調査を2回行い、早稲田大学、日本近代文学館・神奈川近代文学館等における日本の農民文学運動に関する資料調査を3回実施した。『朝鮮日報』『東亜日報』等における辛石然、柳到真、白鉄、安二鉄らの朝鮮における農民文学関連資料文献の収集を、韓国・国会図書館、国立ソウル大学校、高麗大学校において行った。現地調査では適宜金孝順の研究支援を得ることが出来た。さらに、帆足図南次が日本の動向を寄稿していたアメリカの雑誌The New Masses(大英図書館収蔵)を調査し、当該記事を複写した。 3.研究成果の論文化と公開:ワークショップでの発表をもとに本研究に関する論文を執筆した。研究成果は論文化して、共著単行本として刊行する予定である。当該研究課題に関連する学術論文2本が学会誌(『日本近代文学』日本近代文学会、『Cara』日本ケルト協会)に掲載され、1本が学術同人誌(『論潮』)に掲載された。
|
今後の研究の推進方策 |
アイルランド文学と東アジアにおける受容について、農民文学と植民地表象の関わりに焦点を絞り、昨年度と同様の研究方法により、同様の作業を進める。特にアイルランド・イギリスにおけるA. E.らの農民文学運動関連等資料の調査・収集、日本及び韓国における農民文学運動に関する調査及び成果発表に重点を置く予定である。英語圏での先行研究が欠落しているため、研究成果を英語で発表する必要性が高く、適宜英文校閲を依頼する。また、新聞・雑誌など一次資料の整理と注釈の作業を開始する。 1.目下アイルランド学で最も求められている研究の一つである東アジアにおけるアイルランド文学・文化の受容及び相互交渉について、EAJS International Conference等の国際会議で研究成果を発表出来るよう準備する。 2.韓国・ソウルで第二次資料調査を行う。前年度に引き続き、農民文学運動に関する資料文献の収集と考察を行う。同時に、植民地朝鮮におけるアイルランド文学・文化の紹介記事の調査を広範に行う。また、東京大学、早稲田大学等にて日本におけるアイルランド文学受容関係資料調査を継続する。 3.適宜、謝金を使用して関係資料の書誌情報を整理・分析する。日本、アイルランド、朝鮮における農民文学を掲載したメディアの特徴を検討すると共に、農民文学がどのように語られているのか、各国・各作家・論者の特徴を詳細に検討する。加えて、農民文学の実践としての小説、戯曲、詩、短歌に関する論文を執筆する。農民劇場(嫩葉会小劇場、溝ノ口青年演劇部、宮城県桃生郡青年演劇部、広島県沼隈郡農民座等)調査結果については『金沢大学国語国文』等に投稿する。 4.関連分野の研究者からの助言や執筆を仰ぎ、共著論文集の刊行を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2015年度にはイギリス・アイルランドにおける資料調査にかかる旅費を計上していたが、2015年3月に遂行した資料調査によって当初予定していた資料を収集することが出来たため、効率的な研究の推進を鑑みて2015年4月以降は資料の整理・分析及び研究成果の公開に集中し、旅費として計上していた金額の一部を2016年度に繰り越したため。
|
次年度使用額の使用計画 |
アイルランド・イギリスにおける農民文学運動関連等資料の調査・収集、国際学会における研究発表のための旅費として使用する。
|